美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 声をかけられるときに羨望のまなざしを向けられる。美しい彼と共に並ぶため、私は自分磨きの時間も必要になった。

 一緒に造船会社社長婦人会というすごいランチ会に及ばれして行った日のこと。お母さまが皆さんに私を紹介された。

 その日の為、私はエステに行き、ドレスを新調してもらった。鏡の前の自分がここ一か月で別人のような貴婦人に変わりつつあることを自覚しないではいられなかった。

「若奥様。お車が参りました」

「ありがとう」

 私には常に車の送迎がついた。そして外に出るときは気軽な格好で出歩くことは一切なくなった。神崎蓮夫人として見られても恥ずかしくない姿で常に外に出るようお母さまから言われた。私の評価は家の評価につながる。個人ではなくなったのだ。

 都内でフラワーアーティストとして仕事があり、ご挨拶するときはその神崎造船副社長夫人としての姿に変身する。マスコミも来るので、お母さまの言う通り、彼の為に恥ずかしくない女性となる。
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