美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 今日は店で半日過ごす。着いたら上の階で綿シャツにロングパンツ、エプロン、スニーカーに着替え作業をする。だが、帰りには変身する。神崎蓮夫人として見られても恥ずかしくない姿になるのだ。迎えの車に乗り込むときは別人に近い。

 店先で働く私は昔と何ひとつ変わらないが、この神崎邸での結婚生活はラグジュアリーそのものだ。至れり尽くせり。使用人がいて、料理人がいる。

 私は一般人で決してお嬢様ではなかったが、ここでは若奥様と呼ばれる身分となり、自分で家事や炊事をする必要はなくなってしまった。そのせいもあるだろう。いつの間にか、手の荒れも綺麗に治った。医者も呼ばれ、いいお薬を頂いたのだ。

 今日も、新婚の私たちは天蓋のレースが周りにあるキングベッドで寄り添って寝ていた。来ているのはシルクの総レースのナイトドレス。こうやって夜にふたりでその日のことを話す瞬間が大好きだ。人目を気にすることのない二人きりの時間。

「あなたのお陰でサウスエリアの仕事が増えてしまって……店員を増やして良かったわ」
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