美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 指には彼のくれた婚約指輪。

 彼はホテルで待ち合わせた私の姿を見て、一瞬息をのんだ。

「そうか……よくわかったよ」

「え?」

「君のその姿に……あの時一目ぼれしたんだ。昼間の花屋の君ももちろん自然体でとても良かった。だが、あの日ラウンジで見た君はさなぎから脱皮した蝶のように美しかった」

「それなのに、君は名取のものなのかとがっかりした。すると、君は名取を一度フッたとあの時言った。今だと思った。少々強引に君を囲い込んだ」

「蓮さん」

 彼は私の手を引いて優しく自分の腕の中に囲った。彼を見上げた。彼だって美しい。

 今日の彼はシルバーの三つ揃えスーツ。俳優のような整った顔。

 毎日見ても見飽きないほどの美しさ。私は毎日夢の中にいるようだ。
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