美しき造船王は愛の海に彼女を誘う
第一章 美しい人

注文

 つぼみがふくらんだ桜並木。もうすぐここベリが丘に本格的な春が来る。

 由緒ある高級住宅街であるノースエリアに隣接する櫻坂。うちは櫻坂を少し下り、東側に一本入った店。

 もう少し奥まで行くと有名なレストラン兼宿泊施設のあるオーベルージュがある。

 近くには有名な呉服屋さんや美容院、宝石店なども軒を連ねる。

 その中に埋もれるように小さな花屋『ブラッサムフラワー』がある。

 私、清水さくらの伯父夫妻が経営する店だ。伯父のお母さまの代からある二代目の花屋だ。

 私の家族は両親と五つ違いの弟だ。父の仕事の関係で皆海外に住んでいる。私だけ、高校入学時に日本へひとり帰国した。

 母の妹である伯母の家でお世話になっている。その頃から店番をしながら、伯父夫妻に花のことを教えてもらってきた。

 高校からこの店で育ち、花を使った仕事をすることに迷いは全くなかった。専門学校卒業したころ、作ったアレンジを認めてもらったことがきっかけで、名取フラワーズという、国内でも三本の指に入る大きなフラワーアレンジの会社に就職した。
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