美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

 私、椎名は表向き副社長秘書だが、実務は他の人がやっている。

 なぜなら本職は神崎家に仕える執事だからだ。先週一週間、どうしても抜けられない親族の法事で、実家のある九州へ帰省した。

 一週間ぶりに社長室へ戻ってみれば、主は海外出張中。だが、隣の副社長室の前には人が並んで待っている。今日も忙しくなりそうだとため息をついた。

 社長は海外取引で自社船に同乗し、ふた月近く不在だ。副社長である長男の蓮様にすべてを任せて、最近は長期の出張という名の海外への取引を兼ねた船旅に出られている。

 愛妻家で知られる社長は、夫人を連れて出張されることもあるが、やはり蓮様がおられるので夫人は年に半年は必ず愛息の側に残る。もういい年の蓮様に嫉妬する社長を見て、毎回笑ってしまう。
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