余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「あー、どうもどうも。こんなところまでわざわざ恐れ入ります」

 ボリスと呼ばれた男性は頭を掻きながらゆったりとした足取りでこちらに向かってくる。笑顔を浮かべているが、エレノアの目にはその笑顔がやや軽薄に映った。

(わたくし達のことをご存知なのかしら……?)

 エレノアの背が自然と伸びていく。

「団長のボリスです。あ~……その、何だ? 貴族的な挨拶はご容赦いただけますか? 柄じゃねぇつーか、何っつーか……ははっ、俺ァ根っからの庶民なもんでね」

 ボリスは照れ臭そうに鼻の下を掻いた。エレノアの緊張がふわりと解ける。

「ふふっ、お気持ちだけで十分ですわ」

「助かります」

「見た目によらずシャイなんですね?」

「ああ゛? 生意気だぞ小娘」

 一目見てミラは貴族ではないと見抜いたのだろう。ボリスはお茶らけた調子でミラに吠えた。ミラはそれを擽ったそうに受ける。お陰で一層場が和んだ。ビルを始めとした騎士達からも笑みが零れる。

「ボリス。そろそろ自警団の説明を」

「あ~、はい。っても、何から話しゃいーのかな?」

 ボリスはやや拙いながらも自警団の成り立ちから、現行の任務について話してくれた。在籍しているメンバーの経歴は様々で、冒険者ギルドから出向してきている者、この村の出身者で王都の騎士学校で学んだ過去を持つものなど様々だった。

「あの少年は? 団長様のご子息なのでしょうか?」

 エレノアの視線の先には一人の少年の姿があった。年齢は推定10歳前後。彼以外に少年の姿はない。屈強な男達に混じって剣を振るその姿は些か異様とも取れた。
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