余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「ん? あぁ、ユーリですか。アイツは村の農夫の(せがれ)。俺の子じゃありませんよ」

 言われて納得する。確かにボリスとユーリはまるで似ていなかった。紅色の髪に色白な肌、そして栗色の大きな瞳。類似点はほぼゼロと言ってもいい。

(でも、だったらどうして……ああっ!? 危ないっ!)

 ユーリは身を屈めて剣を(かわ)した。斬られた数本の紅髪がひらひらと宙を舞う。少なくとも相手の男性が持つ剣は本物、つまりは真剣であるようだ。エレノアの心拍数がみるみる内に上がっていく。

 一方のユーリはというと、まるで動じていなかった。あどけなさの残る声で雄たけびを上げて相手の男性に斬りかかっていく。

「アイツはどうにも剣が好きなようでね。始めてここに来たのは4年前……6つの時だったかな?」

「何と勇ましい」

「っても、アイツは農夫の倅。両親の意向もあって、ずーっと無視してたんです。期間で言うと……ちょうど3年ぐらいか」

「そんなに……」

「けど、アイツはめげなかった。隅で一人で稽古して、俺や団員達の技を盗んでいったんです」

「……………………」

 否定の声を受けながら努力を重ねる。それは相当な苦痛と孤独が伴う行為だ。エレノアにも経験がある。だからこそ、諸手を挙げて賞賛することが出来なかった。

「終いには、テメェよりも二回り以上大きなゴロツキどもを一人で伸しやがりましてね。これには俺も根負けしてしまって、見習いって形で受け入れることにしたんです。……まぁ、親御さんからは睨まれまくってるんですけどね」

「すっごいガッツ」

「だろ?」

 盛り上がるミラと団長を背に、エレノアは一人歩き出した。未だ両親からは認められていない。その一言が引き金になって。

(赤の他人であるわたくしがご両親に代わる言葉を送れるとは到底思えない。けれど、それでもわたくしは……)

 呆れ顔で嗤う父。何も言い返せないままその背を見送った。その時の記憶が過ったのと同時に、エレノアは大きく口を開いた。
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