余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「面の皮の厚いこと。貴方っていつもそう。見苦しいったらないわ」

「シャロン様……」

 シャロンは三大聖教一族レイス家の次女。聖教のトップである現教皇は彼女の祖父が務めている。にもかかわらず、勇者クリストフの婚約者にと選ばれたのはエレノアだった。言わずもがな、彼女がエレノアを憎む理由はそこにある。

「君を選ばずにおいて正解だった。心からそう思うよ」

 クリストフが追い打ちをかけてきた。胸が痛む。この痛みは未練に端を発したものではない。罪の意識からだ。

 エレノアは気付くことが出来なかったのだ。彼はずっと助けを、安らぎを求めていたのに。彼が背負う責任の重さをまるで理解出来ていなかった。理解しようともしなかったのだ。

 エレノアは深く頭を下げると、前を見据えて歩き出した。視線の先は突き当りに置かれた白磁の花瓶。視界の隅には、クリストフとシャロンの姿がある。彼らの横を通り――過ぎた。駆け足でそそくさと走り去るようにして。

(不甲斐ないわ)

 肩に力を込めて小さく息をつく。

「……聖女様」

 回廊の手前でビルが声をかけてきた。振り返れば、黒と紺を基調とした正装姿の彼と目が合う。
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