余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
 何か物言いたげな表情を浮かべている。言わずもがな案じてくれているのだろう。

 年齢はエレノアと同じ20歳。チョコレートブランのやわらかな髪に、目尻が垂れ下がった萌黄色の瞳。その身に宿す色は勿論のこと、纏う雰囲気もなめらかで心地のいい青年だ。悩みの一つでも打ち明けたくなるようなそんな包容力も感じさせる。

「悪いのはヤツの方ですよ。貴方に非はありません」

 擁護したのはレイだ。全身黒ずくめ。革製の黒のジャケット、パンツ、ブーツと何ともパンクだ。年齢は29歳。黒髪坊主頭、褐色がかった肌に彫の深い顔立ち。目力が強くビルとは対照的なワイルドな印象を抱かせる。

 一方でその職業柄からか知的さも感じさせた。そのためか、顎と口に蓄えられた髭も清潔感を損なわせるようなことはない。

「ヤツは逃げたのですから」

「見限られたのですよ」

「またそのようなことを――」

 レイの反論を笑顔で制する。気持ちはありがたいがこれだけは譲れない。

「クリストフ様は安らぎを得ました。ですから、もうきっと大丈夫です」

 これにはレイだけでなくビルも表情を曇らせた。クリストフに対する途方もない不信。その上にエレノアに対する同情が乗っている。彼女自身はそう解釈していた。

「何はともあれこれで用は済みました。早く邸に戻るとしましょう」

 エレノアは笑顔で告げた。切り替えをアピールしてのことだ。こうなると2人も呑み込まざるを得ない。2人は微苦笑を浮かべつつ頷く。

「そうですね。この腕輪ともおさらばしたいですし」

「同感です。ったく、気色悪りぃったらありゃしねえ」

 レイは鬱屈とした表情で自身の腕を見た。2人の両手には黄金の太い腕輪が付けられている。この腕輪には毒針と警報機が仕込まれているのだ。ほんの僅かでも魔法を使えば猛毒に侵され、警備兵に囲まれる。

 目的は王を始めとした王族の身を守るため。しかしながら、この腕輪の装着は登城者全員に強要されるものではない。()()()()()は除外されるのだ。現にクリストフとシャロンはこの腕輪をつけていなかった。

 エレノアは腕輪に施された巧みな(つた)の装飾を眺めつつ苦笑を浮かべる。

「それにサーベルも。手元にないとどうにも落ち着かなくて」

 そう零したのはビルだ。無力化されたことへの不安というよりは、むず痒さが先行しているように思う。彼は騎士であるのだ。彼にとって剣は、最早単なる道具ではなく体の一部であるのかもしれない。
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