呪われた精霊の王子様は悪役令嬢に恋をする
現れた魔獣
「まぁ!では、エルディアーナ様は次の魔法科の授業はお休みに?」
「ええ、ご一緒したいのは、山々なのですが」
音楽室からクラスへと帰る学園の廊下で、数人のクラスメイトに囲まれて、エルディアーナが申し訳無さそうに応える。
明らかにしょんぼりと肩を落とすご令嬢方には悪いが、悪玉女が何かを企んでいる以上エルディアーナの参加はあり得ない。
大方、魔獣に自分を襲わせれば、ギルベルトが出てくるとでも思っているのだろうがーーーー学園内の警護は増やしたし、魔獣が出てもその辺の騎士が何とかするだろう。
「ではせめて、今日の中休みにカフェテラスでお茶をご一緒して下さいませんか?」
この次の授業の後は確か、剣術だったか。
この授業は、令嬢の場合は自由参加だ。
活発な令嬢は参加するし、エルディアーナも、仲の良くなったクラスメイトの応援で見学をした事もあったな。
「はい、喜んで!」
エルディアーナが嬉しそうに返事をする。
楽しそうで何よりだが、念の為に精霊達を魔獣避けに、カフェテラスの周りで泳がしておくか。
最近は、魔法の発動よりも過保護の発動が多いギルベルトであった。
授業の後に、カフェの指定されたテラスへ行くと、数人の生徒が増えている。
生徒ーーーー平民もいたからギルベルトはそう括るが、エルディアーナは特に身分を気にせず、誰にでも同じ対応をするので、平民枠の生徒からも人気がある。
勿論、最低限の線引きはするが。
平民生徒の方も礼儀正しく接するので、他の令嬢達との軋轢も無いようで、この辺り、エルディアーナの采配は見事だと思う。
「ーーーーあら?何かしら、これは」
エルディアーナと連れ立って来た令嬢の一人が座る席の後ろ側、低木で出来た垣根に、巾着が引っかかっている。
スカートの隠しからはみ出たら、丁度紐が引っかかって仕舞う位置だ。
「失せ物届けを出しておきましょう。今、探されてるかも知れませんから、暫くはここに置いて、帰りに用務室へ出しておくわ」
令嬢にコトン、とテーブルに硬い音を立てて置かれた巾着は、どうやら中身は硝子瓶のようだ。明るい陽光が入る設計のテラスはテーブルの上の薄い布地の巾着を透かす。
エルディアーナも席に着いて、お茶は和やかな雰囲気で始まり、それぞれがこの時間に癒やされているようだ。
エルと居ると、ほんわかするよなー。
和むと言うか、落ち着くというか。
だが、エルディアーナの向かいの女生徒は、巾着から目を離さず考え込んでいるようだ。
「どうかなさいましたか?」
気が付いたエルディアーナが問う。
「あっ、申し訳ございませんエルディアーナ様。この巾着ーーーーシシリア様が持っていらした物と良く似ている気がして」
この中に小さい硝子瓶が入っていて、中
にはこれまた、小さい飴玉が入っていたそうだ。
「それ、私も見た事があります!その巾着から瓶を出して、王太子殿下に飴玉を差し上げていたのを」
ギルベルトは即座に魔法探知に切り替える。
思わず、チッと舌打ちが出そうになる。
巾着にも、瓶にも強力な術が施されているようだ。
これでは教師も邪な気配を見抜けないだろうな。
ーーーーだが。何だこれは?
悪玉娘は『飴玉も香水も無くなるし』と言っていた。補充出来たのか?魅了系の薬物にしては妙に重い気配のようだが。
確かに丸い玉が入ってはいるようだし、探知出来た部分だけでもーーーーこの気配、人間界の『ニオイ』がしないのだ。
「ええ!?でしたら、元の位置に置いたほうが宜しいのでは?何癖付けられて、盗んだと言われそうですもの」
これにはエルディアーナも苦笑いをして頷いた。
高い確率で、あり得る話なので、危うきには近寄らないほうが良いだろう。
ギルベルトは巾着の中身を調べたかったが、恐らくは危険物だ。ギャラリーが居ると出来ないし、何よりもエルディアーナ達をを遠ざけてからだ。
丁度良いところで中休みも終わり、皆でクラスに戻った所、シシリアのいるべき席は空のままだった。
「もしかしたら、探しているのかも」
《関わるな。アレは十中八九黒の魔女から仕入れている》
エルディアーナの女神心が出る前に釘を刺しておく。
目を見開いた後、キリッと神妙に頷くエルディアーナは可愛かった。
「グレーズ公爵令嬢!御者に聞いた所、こちらにいらっしゃるとお聞きして」
屋敷に帰る前に、エルディアーナが学園西の森入り口に生っているアザリーの実が欲しいと言うので、いくつか精霊達と採取していた所に、同じクラスの男子生徒が現れた。
確か、伯爵家のなんたら、だ。
エルディアーナの事を、いつも視線追いかけている令息で、ギルベルト的に鬱陶しいやつだ。
「私に何か御用でしょうか?」
コテン、と首を傾げて、そんな可愛い対応しなくても良いぞ、といつも思うが、コイツの対応は誰であっても変わらないんだよな。
「あ、あの。これがカフェテラスに。今日の中休みに、貴女と他の女生徒達がそこでお茶をしていたと聞いて」
ーーーー貴女の持ち物ではありませんか?
この盆暗余計な事をしやがる。
それを口実にエルディアーナに会いたかったんだろうが。
違うから、それを持って早く消えてくれ。
「いいえ。シシリア様の物ではないかと。もし、探していたらとーーーーだからあの場所へ戻しておいたのです。少しわかりやすくして」
「そ、そうなんですね。なら、失せ物届けに出して置きます」
残念だな。早く用務室へ行ってこい。
盆暗伯爵家の令息は、項垂れると回れ右してトボトボと歩き出すが、元が鈍くさいのだろう。
ーーーーツンッと躓いて派手に転んだ。
その転んだ拍子に、飛んだ巾着から瓶が転げる。
運悪く蓋が緩んでいたらしく、コロッと取れた蓋から出てきた、真っ黒い渦を巻く硝子玉が、伯爵令息の目の前で転がる。
ーーーー何やってんだ、コイツは!
「アタタた、ん?何だこれ、グエッ」
令息がそう言うのと、ギルベルトが襟首を引っ張り、令息を黒い玉から遠ざけたのは同時だった。
「馬鹿!あれに触るな!」
「ヒッ!?人形が喋ったーーーー!?」
「俺は人形じゃない、精霊だ!この盆暗子息が!」
あれじゃ、まるで瘴気の塊だ。
ギルベルトは浄化を試みるが、間に合わない。
硝子玉にヒビが入り、そこから大きな魔力と瘴気が漏れ出ているのだ。
「ギル!煙がーーーー」
駄目だ、硝子玉のヒビが広がり、ピキピキと嫌な音を立てる。
パキン、パキンと硝子の破片が飛ぶ。
「オイ、そこの盆暗。身体に結界位は張れるな?俺が合図したら、身体強化も掛けて、走れ。いいな?男なら、自分の身は自分で守れよ?ーーーー来るぞ!」
《キャシャンーーーー》
薄いシャンパングラスを大理石の床に叩き付けたらこんな音がするだろう。
膨張する力に耐え兼ねた硝子玉が粉々に砕け散った。
《グアァァァァァァーーーー!》
どす黒い瘴気の中から現れたのは、牙も剥き出しに咆哮を上げ、憎悪の篭った眼差しと、立ち上がって長く伸びた爪で威嚇するスピリットドラゴンの幼体だった。
「ええ、ご一緒したいのは、山々なのですが」
音楽室からクラスへと帰る学園の廊下で、数人のクラスメイトに囲まれて、エルディアーナが申し訳無さそうに応える。
明らかにしょんぼりと肩を落とすご令嬢方には悪いが、悪玉女が何かを企んでいる以上エルディアーナの参加はあり得ない。
大方、魔獣に自分を襲わせれば、ギルベルトが出てくるとでも思っているのだろうがーーーー学園内の警護は増やしたし、魔獣が出てもその辺の騎士が何とかするだろう。
「ではせめて、今日の中休みにカフェテラスでお茶をご一緒して下さいませんか?」
この次の授業の後は確か、剣術だったか。
この授業は、令嬢の場合は自由参加だ。
活発な令嬢は参加するし、エルディアーナも、仲の良くなったクラスメイトの応援で見学をした事もあったな。
「はい、喜んで!」
エルディアーナが嬉しそうに返事をする。
楽しそうで何よりだが、念の為に精霊達を魔獣避けに、カフェテラスの周りで泳がしておくか。
最近は、魔法の発動よりも過保護の発動が多いギルベルトであった。
授業の後に、カフェの指定されたテラスへ行くと、数人の生徒が増えている。
生徒ーーーー平民もいたからギルベルトはそう括るが、エルディアーナは特に身分を気にせず、誰にでも同じ対応をするので、平民枠の生徒からも人気がある。
勿論、最低限の線引きはするが。
平民生徒の方も礼儀正しく接するので、他の令嬢達との軋轢も無いようで、この辺り、エルディアーナの采配は見事だと思う。
「ーーーーあら?何かしら、これは」
エルディアーナと連れ立って来た令嬢の一人が座る席の後ろ側、低木で出来た垣根に、巾着が引っかかっている。
スカートの隠しからはみ出たら、丁度紐が引っかかって仕舞う位置だ。
「失せ物届けを出しておきましょう。今、探されてるかも知れませんから、暫くはここに置いて、帰りに用務室へ出しておくわ」
令嬢にコトン、とテーブルに硬い音を立てて置かれた巾着は、どうやら中身は硝子瓶のようだ。明るい陽光が入る設計のテラスはテーブルの上の薄い布地の巾着を透かす。
エルディアーナも席に着いて、お茶は和やかな雰囲気で始まり、それぞれがこの時間に癒やされているようだ。
エルと居ると、ほんわかするよなー。
和むと言うか、落ち着くというか。
だが、エルディアーナの向かいの女生徒は、巾着から目を離さず考え込んでいるようだ。
「どうかなさいましたか?」
気が付いたエルディアーナが問う。
「あっ、申し訳ございませんエルディアーナ様。この巾着ーーーーシシリア様が持っていらした物と良く似ている気がして」
この中に小さい硝子瓶が入っていて、中
にはこれまた、小さい飴玉が入っていたそうだ。
「それ、私も見た事があります!その巾着から瓶を出して、王太子殿下に飴玉を差し上げていたのを」
ギルベルトは即座に魔法探知に切り替える。
思わず、チッと舌打ちが出そうになる。
巾着にも、瓶にも強力な術が施されているようだ。
これでは教師も邪な気配を見抜けないだろうな。
ーーーーだが。何だこれは?
悪玉娘は『飴玉も香水も無くなるし』と言っていた。補充出来たのか?魅了系の薬物にしては妙に重い気配のようだが。
確かに丸い玉が入ってはいるようだし、探知出来た部分だけでもーーーーこの気配、人間界の『ニオイ』がしないのだ。
「ええ!?でしたら、元の位置に置いたほうが宜しいのでは?何癖付けられて、盗んだと言われそうですもの」
これにはエルディアーナも苦笑いをして頷いた。
高い確率で、あり得る話なので、危うきには近寄らないほうが良いだろう。
ギルベルトは巾着の中身を調べたかったが、恐らくは危険物だ。ギャラリーが居ると出来ないし、何よりもエルディアーナ達をを遠ざけてからだ。
丁度良いところで中休みも終わり、皆でクラスに戻った所、シシリアのいるべき席は空のままだった。
「もしかしたら、探しているのかも」
《関わるな。アレは十中八九黒の魔女から仕入れている》
エルディアーナの女神心が出る前に釘を刺しておく。
目を見開いた後、キリッと神妙に頷くエルディアーナは可愛かった。
「グレーズ公爵令嬢!御者に聞いた所、こちらにいらっしゃるとお聞きして」
屋敷に帰る前に、エルディアーナが学園西の森入り口に生っているアザリーの実が欲しいと言うので、いくつか精霊達と採取していた所に、同じクラスの男子生徒が現れた。
確か、伯爵家のなんたら、だ。
エルディアーナの事を、いつも視線追いかけている令息で、ギルベルト的に鬱陶しいやつだ。
「私に何か御用でしょうか?」
コテン、と首を傾げて、そんな可愛い対応しなくても良いぞ、といつも思うが、コイツの対応は誰であっても変わらないんだよな。
「あ、あの。これがカフェテラスに。今日の中休みに、貴女と他の女生徒達がそこでお茶をしていたと聞いて」
ーーーー貴女の持ち物ではありませんか?
この盆暗余計な事をしやがる。
それを口実にエルディアーナに会いたかったんだろうが。
違うから、それを持って早く消えてくれ。
「いいえ。シシリア様の物ではないかと。もし、探していたらとーーーーだからあの場所へ戻しておいたのです。少しわかりやすくして」
「そ、そうなんですね。なら、失せ物届けに出して置きます」
残念だな。早く用務室へ行ってこい。
盆暗伯爵家の令息は、項垂れると回れ右してトボトボと歩き出すが、元が鈍くさいのだろう。
ーーーーツンッと躓いて派手に転んだ。
その転んだ拍子に、飛んだ巾着から瓶が転げる。
運悪く蓋が緩んでいたらしく、コロッと取れた蓋から出てきた、真っ黒い渦を巻く硝子玉が、伯爵令息の目の前で転がる。
ーーーー何やってんだ、コイツは!
「アタタた、ん?何だこれ、グエッ」
令息がそう言うのと、ギルベルトが襟首を引っ張り、令息を黒い玉から遠ざけたのは同時だった。
「馬鹿!あれに触るな!」
「ヒッ!?人形が喋ったーーーー!?」
「俺は人形じゃない、精霊だ!この盆暗子息が!」
あれじゃ、まるで瘴気の塊だ。
ギルベルトは浄化を試みるが、間に合わない。
硝子玉にヒビが入り、そこから大きな魔力と瘴気が漏れ出ているのだ。
「ギル!煙がーーーー」
駄目だ、硝子玉のヒビが広がり、ピキピキと嫌な音を立てる。
パキン、パキンと硝子の破片が飛ぶ。
「オイ、そこの盆暗。身体に結界位は張れるな?俺が合図したら、身体強化も掛けて、走れ。いいな?男なら、自分の身は自分で守れよ?ーーーー来るぞ!」
《キャシャンーーーー》
薄いシャンパングラスを大理石の床に叩き付けたらこんな音がするだろう。
膨張する力に耐え兼ねた硝子玉が粉々に砕け散った。
《グアァァァァァァーーーー!》
どす黒い瘴気の中から現れたのは、牙も剥き出しに咆哮を上げ、憎悪の篭った眼差しと、立ち上がって長く伸びた爪で威嚇するスピリットドラゴンの幼体だった。