呪われた精霊の王子様は悪役令嬢に恋をする
オマケ2
優しい眠りの時が訪れる。
月の精霊が、星々の光を散りばめた雲織のショールを夜空に掛ければ、冷たく冴える大気が柔らかく大地に降りそそぐ。
天蓋に守られて眠る美しい少女は、今宵は何の夢を見るのだろうか。
願わくば、己が出てくる夢であればいいと、ギルベルトは思う。
まるでここは眠る女神の聖域。
甘く馨しい、清涼な空気に満ちて、精霊達が持ち込んだ小さな花々が、淡く灯る。
暗闇が苦手なエルディアーナの為に、精霊達が用意した花灯籠だ。
ギルベルトは、艷やかな銀糸を掬い口付けると、紗の帳をそっと揺らす。
ーーーーん、と甘く洩れた吐息に一瞬肩をビクつかせ振り返るが、起きた訳では無さそうで、ホッとする。
可愛い寝顔を見ていたいが、生憎ギルベルトには重要な任務があるのだ。
以前、可愛いなーと思いつつ、少しの悪戯をしつつ、エルディアーナの寝顔を堪能していたら、いつの間にか朝だった事がある。
ここは涙を呑み込み、行かねばならない。
そっと天蓋の外へ出ると、ギルベルト用の小さな部屋がある。
部屋と言っても、人形のお家セットのそれだ。
だが、贅を凝らして造られたギルベルトの部屋は、玩具として売られている物とは格が違う。
お湯も出るし、バスルームだってある。
全てが小さなギルベルトに合わせて作られ、素材から吟味された一級品だ。
フワリと降りれば金色のネズミが我が物顔で寛いでいる。
ーーーー珍しくエルの枕元にいないと思ったら!
「遅いぞ、ギルベルト」
「ーーーー何でお前がいるんだリカルド。ここは、俺の部屋だぞ」
これで数回目のやり取りだが、毎回げんなりする。
「だって、仕方がないじゃないか。子供の姿でもネズミでも、エルと一緒にバスルームを使うとルーシーに怒られるんだから」
それはギルベルトも一緒だ。
なんせ本来の姿がバレてしまったのだから。
あの時は死ぬかと思った位に、特にテオバルドの笑顔は怖かった。
エルはエルで、「もうお嫁に行けません」なんて言ってるし、ギルベルト以外の何処に行くつもりなんだと問いたい。
ーーーー問えないけどな、まだ。
「なぁ、ギル。もしかして本来の俺の姿バレたら死ぬ?」
このリカルドの問に、ギルベルトは大いに真面目に頷いた。
「あ、この香油、母上から貰ってきたからお前も使うか?何かスベスベになるって言ってたぞ」
モコモコ泡立ちながら、リカルドは金色の毛並を丁寧に洗っている。
ーーーー洗っているのはちび達だが。
ギルベルトは渡された香油瓶の蓋をとると、クン、と匂いを確かめる。
「へぇ、如何にもエルが好きそうな香りだな。甘いのに爽やかと言うか」
何よりキツく無いのが良い。
これなら、あるか、無しかの具合で薫る。
ありがたく使わせてもらう事にして、ギルベルトは専用バスルームへと向かった。
思えばおかしな身体になったものだ、と思う。
ギルベルトを小さな三頭身人形にしたかの様なーーーーやや幼く見えるーーーー身体質感は生身のそれだ。
お腹も空けば食事もする。
だが、生身ではありえない場所がまがるし、折れるし伸びるのだ。
モチモチの感触で、エルディアーナはよく頬ずりをしてくる。
モチモチモッチリと弄るのも好きだ。
どうせなら、本来の姿に戻っている時にやって欲しいものだが、道のりは遠い。
苛立つ事に、エルディアーナはリカルドのモフモフも好きらしい。
だからこうして、普段のリカルドならありえない、毛並のお手入れなんてしているのだろう。
エルディアーナに存分にモフって貰う為に。
ギルベルトは唸りながら、各所ムダ毛がないかを確認すると、保湿の香油瓶を開けた。
「良し!モチモチのしっとりだな」
リカルドを見れば、ふんわりとした毛並も艷やかだ。
香りも微かで、これならエルディアーナの邪魔をしない。
エルディアーナの手から、モチモチ、モフモフを勝ち取るには、毎夜の手入れは欠かせないギルベルト達であった。
ギルベルトは薄手の寝間着に着替えると、天使の眠る天蓋の中へと潜り込む。
人形とネズミならば、とルーシーが渋々と許可を出したのは記憶にまだ新しい。
何だかんだで、エルがちょっとだけ寂しそうだったからな。
寝台の枕元にある、丸い籐編みの篭が左右に一つづゝある。
極上の綿で作られたクッションが、程よい硬さで籠の大きさに合わせて詰められた物は、リカルドもお墨付きの寝心地の良さだ。
肌触りの良いブランケットと、文字通り鳥の羽を使った掛け布団は軽くて暖かい。
ギルベルトは自分の寝床に潜る前にエルディアーナの額に口付けようと、そっと枕元に寄る。
不埒なネズミもいたがサッサと蹴り飛ばす。
「エル、お休みーーーーんあ!?」
ギュッと胸元の熊と一緒に抱き込まれた。
「ーーーー抱き込まれるならば、エル側が良かったんだが」
細い腕にグッと押し付けられたのは、モコモコの熊。
エルディアーナの、柔らかい肌の二の腕の感触はあれど、顔面、全面はほぼ熊だ。
ジタジタモゴモゴ動けば、漸く顔が出せた。
少し苦しいが、すぐ側には可愛い寝顔。
ギルベルトはまぁ良いかな、と瞳を閉じた。
月の精霊が、星々の光を散りばめた雲織のショールを夜空に掛ければ、冷たく冴える大気が柔らかく大地に降りそそぐ。
天蓋に守られて眠る美しい少女は、今宵は何の夢を見るのだろうか。
願わくば、己が出てくる夢であればいいと、ギルベルトは思う。
まるでここは眠る女神の聖域。
甘く馨しい、清涼な空気に満ちて、精霊達が持ち込んだ小さな花々が、淡く灯る。
暗闇が苦手なエルディアーナの為に、精霊達が用意した花灯籠だ。
ギルベルトは、艷やかな銀糸を掬い口付けると、紗の帳をそっと揺らす。
ーーーーん、と甘く洩れた吐息に一瞬肩をビクつかせ振り返るが、起きた訳では無さそうで、ホッとする。
可愛い寝顔を見ていたいが、生憎ギルベルトには重要な任務があるのだ。
以前、可愛いなーと思いつつ、少しの悪戯をしつつ、エルディアーナの寝顔を堪能していたら、いつの間にか朝だった事がある。
ここは涙を呑み込み、行かねばならない。
そっと天蓋の外へ出ると、ギルベルト用の小さな部屋がある。
部屋と言っても、人形のお家セットのそれだ。
だが、贅を凝らして造られたギルベルトの部屋は、玩具として売られている物とは格が違う。
お湯も出るし、バスルームだってある。
全てが小さなギルベルトに合わせて作られ、素材から吟味された一級品だ。
フワリと降りれば金色のネズミが我が物顔で寛いでいる。
ーーーー珍しくエルの枕元にいないと思ったら!
「遅いぞ、ギルベルト」
「ーーーー何でお前がいるんだリカルド。ここは、俺の部屋だぞ」
これで数回目のやり取りだが、毎回げんなりする。
「だって、仕方がないじゃないか。子供の姿でもネズミでも、エルと一緒にバスルームを使うとルーシーに怒られるんだから」
それはギルベルトも一緒だ。
なんせ本来の姿がバレてしまったのだから。
あの時は死ぬかと思った位に、特にテオバルドの笑顔は怖かった。
エルはエルで、「もうお嫁に行けません」なんて言ってるし、ギルベルト以外の何処に行くつもりなんだと問いたい。
ーーーー問えないけどな、まだ。
「なぁ、ギル。もしかして本来の俺の姿バレたら死ぬ?」
このリカルドの問に、ギルベルトは大いに真面目に頷いた。
「あ、この香油、母上から貰ってきたからお前も使うか?何かスベスベになるって言ってたぞ」
モコモコ泡立ちながら、リカルドは金色の毛並を丁寧に洗っている。
ーーーー洗っているのはちび達だが。
ギルベルトは渡された香油瓶の蓋をとると、クン、と匂いを確かめる。
「へぇ、如何にもエルが好きそうな香りだな。甘いのに爽やかと言うか」
何よりキツく無いのが良い。
これなら、あるか、無しかの具合で薫る。
ありがたく使わせてもらう事にして、ギルベルトは専用バスルームへと向かった。
思えばおかしな身体になったものだ、と思う。
ギルベルトを小さな三頭身人形にしたかの様なーーーーやや幼く見えるーーーー身体質感は生身のそれだ。
お腹も空けば食事もする。
だが、生身ではありえない場所がまがるし、折れるし伸びるのだ。
モチモチの感触で、エルディアーナはよく頬ずりをしてくる。
モチモチモッチリと弄るのも好きだ。
どうせなら、本来の姿に戻っている時にやって欲しいものだが、道のりは遠い。
苛立つ事に、エルディアーナはリカルドのモフモフも好きらしい。
だからこうして、普段のリカルドならありえない、毛並のお手入れなんてしているのだろう。
エルディアーナに存分にモフって貰う為に。
ギルベルトは唸りながら、各所ムダ毛がないかを確認すると、保湿の香油瓶を開けた。
「良し!モチモチのしっとりだな」
リカルドを見れば、ふんわりとした毛並も艷やかだ。
香りも微かで、これならエルディアーナの邪魔をしない。
エルディアーナの手から、モチモチ、モフモフを勝ち取るには、毎夜の手入れは欠かせないギルベルト達であった。
ギルベルトは薄手の寝間着に着替えると、天使の眠る天蓋の中へと潜り込む。
人形とネズミならば、とルーシーが渋々と許可を出したのは記憶にまだ新しい。
何だかんだで、エルがちょっとだけ寂しそうだったからな。
寝台の枕元にある、丸い籐編みの篭が左右に一つづゝある。
極上の綿で作られたクッションが、程よい硬さで籠の大きさに合わせて詰められた物は、リカルドもお墨付きの寝心地の良さだ。
肌触りの良いブランケットと、文字通り鳥の羽を使った掛け布団は軽くて暖かい。
ギルベルトは自分の寝床に潜る前にエルディアーナの額に口付けようと、そっと枕元に寄る。
不埒なネズミもいたがサッサと蹴り飛ばす。
「エル、お休みーーーーんあ!?」
ギュッと胸元の熊と一緒に抱き込まれた。
「ーーーー抱き込まれるならば、エル側が良かったんだが」
細い腕にグッと押し付けられたのは、モコモコの熊。
エルディアーナの、柔らかい肌の二の腕の感触はあれど、顔面、全面はほぼ熊だ。
ジタジタモゴモゴ動けば、漸く顔が出せた。
少し苦しいが、すぐ側には可愛い寝顔。
ギルベルトはまぁ良いかな、と瞳を閉じた。