呪われた精霊の王子様は悪役令嬢に恋をする
精霊憑きの公爵令嬢
《おはよーえるでぃあーな》
《オハヨーエルディアーナ》
お早う、お早うと、枕元で精霊の騒ぐ声が一昨日で7歳を迎えたばかりのエルディアーナの瞼をこじ開ける。
まだ早朝と言える時間だが、精霊のお早う催促に根負けしたエルディアーナは、身体を起こす。
「お早う今日はどうしたの?何か面白い事でもあった?」
《ルーシーがころんでた!》
《あさごはんがパンケーキだって》
天蓋の中では精霊の光が乱舞していて綺麗だが、朝一からは目にキツイ。
エルディアーナが初めて魔力を放出したあの日から、こうして精霊が寄ってくる様になった。
精霊達は、魔力を対価にお願いを聞いてくれたりするので、魔力過多のエルディアーナにとっては願ったり叶ったりの存在だ。
ただ、これを知った父親のテオバルド曰く、知られない方が良い事だそうで、これがエルディアーナに増えた秘密の一つになった。
何でも、精霊を使役出来る精霊使いは数が圧倒的に少ないらしく、王宮に拉致られて死ぬまでこき使われると言う。
ーーーー絶対にゴメンだわそんな生活。
公爵家でもこの事を知っているのは僅か数人だけだ。
精霊達のおしゃべりを聞いて、暫し時間を潰すとエルディアーナは呼び鈴を鳴らす。
「お早うございます、お嬢様」
やがてやって来た侍女のルーシーは、エルディアーナが精霊憑きだと知っている、数少ない使用人のうちの一人。
最近やっと見習いが取れたばかりのルーシーは、元はランドリーメイドで、エルディアーナが精霊が見えるようになったばかりの頃の、ちょっとした関わりが切っ掛けで、大抜擢された忠誠心厚い侍女なのだ。
エルディアーナの寝室にルーシーしか入って来ていないと悟った精霊達が、途端に騒ぎ出す。
「相変わらずの精霊達ですねぇ。私には見えませんが、何となくはしゃいでる気配は感じます」
公爵領の本邸でも賑やかだったけど、王都の屋敷にまで付いて来る精霊がいるとは思わなかった。
うん、賑やかだよね。
「今日はフェザー先生の所へ行く日だったわよね?」
「はい、10時からですが。その後、いつものカフェに予約を入れてありますから、頑張りましょうね、お嬢様」
フェザー先生に出会ってから2年、12歳だったルーシーは今年で14歳になる。
お姉さんぽく笑うようになったなぁ、と感慨深くなる。
フェザー先生は王都に医院を持つ名医で、公爵領にいつまでも滞在して頂く訳にはいかず、エルディアーナが王都へやってきたのだ。
因みにフェザー先生もエルディアーナが精霊憑きだと知っている。
精霊に魔力を分け始めてからは、体調を崩す事が減って来たので、フェザー先生は「大物と契約出来れば解決しそうですね」なんて言っていたけど、面倒な事になりそうなことは避けたいです。
「あ、ルーシー、カフェにお屋敷の皆に配る焼き菓子を注文してくれた?」
「はい、ローマン様にお伝えしておきましたので、大丈夫かと」
ローマンは王都邸の執事で、本邸の家令、リヒャルトの息子だ。
「本当は、皆の里帰りに持って帰れる様な、砂糖菓子があれば良いのだけれど••••」
これが中々難しいのだ。
王都から公爵領までは数日掛かり、焼き菓子は湿気ったり割れたり、潰れたりして駄目になってしまう。
それ以前に、日持ちしない焼き菓子も多い。
故郷の弟妹にも、甘いお菓子を食べさせてあげたいと言っていた、下働きの使用人。
お屋敷にいる自分は、たまに食べられるけど、とクッキーをまじまじと見ながら呟いていたのだ。
カラフルな飴とか、金平糖とか、可愛い瓶詰めになっていればなぁ。
いざと言う時には硝子の瓶は売れるし。
そうエルディアーナが、こっそり呟いた筈の言葉を精霊達が聞いていたのか、気まぐれな神が願いを聞き届けたのか。
その日のカフェの帰り道、大通りから少し外れた小道に、お伽噺に出て来そうなファンシーな飴屋が露店を出していたのだ。
運命の分岐点があるのなら、きっとここだったに違いないと、後のエルディアーナは思うだろう。
《えるでぃあーな、こっち、こっちだよ!》
《とってもおいしいよきっと》
騒ぐ精霊達に促されて入った小道にあった露店は一人の老婆が店番をしていて、並べられた飴や金平糖の瓶ががキラキラとしている。
これは、目移りしてしまう。
色彩豊かな商品達にひと目で心奪われたエルディアーナは、早速品定めをする。
でも、お屋敷の使用人全員分だと、ここにあるもの全てを購入しなくては、間に合わないだろう。
ーーーーうん、要交渉だね。
「あの、お婆さん、ここにあるものを全て売って頂く事は、出来ますか?」
最初は吃驚と、警戒もした老婆は、理由を聞けば快くエルディアーナに売ってくれた。
しかも、おまけを付けてくれたのだ。
小さな小瓶は丸くて、銀色の蓋に薔薇の花が象っているお洒落で可愛らしい小瓶だ。その中に、青系統の金平糖が詰まっている。
瓶に寄り添う形で小さな人形が括られているが、これもおまけなのかな。
随分と綺麗な顔立ちの人形だ。
大事にしてあげておくれーーーー。
聞けばお婆さんにそう言われてしまう。
こうしてエルディアーナは、ニッコリ笑うお婆さんの言葉に甘えて、オマケの小瓶と人形を受け取ったのだった。
ーーーーそして。
金平糖が残り数少なく、しょんぼりしそうになった日。
文机に落ちていた金平糖。
煌めかしく虹色と白銀色の丸いーーーーそれを手に取った時、綺麗な人形の綺麗な瞳がパッチリ開いた。
人形のバイオレットブルーの瞳は驚愕で彩られている。
人形の口元がパクパクと動くき、唖然とする。
これ、なんてファンタジー!?
そして、オマケのオマケなのかーーーー。
「人形がしゃべった•••••」
それは、ちょっと普通じゃない公爵令嬢のエルディアーナに、人には言えない秘密が増えた瞬間だった。
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読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)
次回からは、ギルベルトサイドです。
《オハヨーエルディアーナ》
お早う、お早うと、枕元で精霊の騒ぐ声が一昨日で7歳を迎えたばかりのエルディアーナの瞼をこじ開ける。
まだ早朝と言える時間だが、精霊のお早う催促に根負けしたエルディアーナは、身体を起こす。
「お早う今日はどうしたの?何か面白い事でもあった?」
《ルーシーがころんでた!》
《あさごはんがパンケーキだって》
天蓋の中では精霊の光が乱舞していて綺麗だが、朝一からは目にキツイ。
エルディアーナが初めて魔力を放出したあの日から、こうして精霊が寄ってくる様になった。
精霊達は、魔力を対価にお願いを聞いてくれたりするので、魔力過多のエルディアーナにとっては願ったり叶ったりの存在だ。
ただ、これを知った父親のテオバルド曰く、知られない方が良い事だそうで、これがエルディアーナに増えた秘密の一つになった。
何でも、精霊を使役出来る精霊使いは数が圧倒的に少ないらしく、王宮に拉致られて死ぬまでこき使われると言う。
ーーーー絶対にゴメンだわそんな生活。
公爵家でもこの事を知っているのは僅か数人だけだ。
精霊達のおしゃべりを聞いて、暫し時間を潰すとエルディアーナは呼び鈴を鳴らす。
「お早うございます、お嬢様」
やがてやって来た侍女のルーシーは、エルディアーナが精霊憑きだと知っている、数少ない使用人のうちの一人。
最近やっと見習いが取れたばかりのルーシーは、元はランドリーメイドで、エルディアーナが精霊が見えるようになったばかりの頃の、ちょっとした関わりが切っ掛けで、大抜擢された忠誠心厚い侍女なのだ。
エルディアーナの寝室にルーシーしか入って来ていないと悟った精霊達が、途端に騒ぎ出す。
「相変わらずの精霊達ですねぇ。私には見えませんが、何となくはしゃいでる気配は感じます」
公爵領の本邸でも賑やかだったけど、王都の屋敷にまで付いて来る精霊がいるとは思わなかった。
うん、賑やかだよね。
「今日はフェザー先生の所へ行く日だったわよね?」
「はい、10時からですが。その後、いつものカフェに予約を入れてありますから、頑張りましょうね、お嬢様」
フェザー先生に出会ってから2年、12歳だったルーシーは今年で14歳になる。
お姉さんぽく笑うようになったなぁ、と感慨深くなる。
フェザー先生は王都に医院を持つ名医で、公爵領にいつまでも滞在して頂く訳にはいかず、エルディアーナが王都へやってきたのだ。
因みにフェザー先生もエルディアーナが精霊憑きだと知っている。
精霊に魔力を分け始めてからは、体調を崩す事が減って来たので、フェザー先生は「大物と契約出来れば解決しそうですね」なんて言っていたけど、面倒な事になりそうなことは避けたいです。
「あ、ルーシー、カフェにお屋敷の皆に配る焼き菓子を注文してくれた?」
「はい、ローマン様にお伝えしておきましたので、大丈夫かと」
ローマンは王都邸の執事で、本邸の家令、リヒャルトの息子だ。
「本当は、皆の里帰りに持って帰れる様な、砂糖菓子があれば良いのだけれど••••」
これが中々難しいのだ。
王都から公爵領までは数日掛かり、焼き菓子は湿気ったり割れたり、潰れたりして駄目になってしまう。
それ以前に、日持ちしない焼き菓子も多い。
故郷の弟妹にも、甘いお菓子を食べさせてあげたいと言っていた、下働きの使用人。
お屋敷にいる自分は、たまに食べられるけど、とクッキーをまじまじと見ながら呟いていたのだ。
カラフルな飴とか、金平糖とか、可愛い瓶詰めになっていればなぁ。
いざと言う時には硝子の瓶は売れるし。
そうエルディアーナが、こっそり呟いた筈の言葉を精霊達が聞いていたのか、気まぐれな神が願いを聞き届けたのか。
その日のカフェの帰り道、大通りから少し外れた小道に、お伽噺に出て来そうなファンシーな飴屋が露店を出していたのだ。
運命の分岐点があるのなら、きっとここだったに違いないと、後のエルディアーナは思うだろう。
《えるでぃあーな、こっち、こっちだよ!》
《とってもおいしいよきっと》
騒ぐ精霊達に促されて入った小道にあった露店は一人の老婆が店番をしていて、並べられた飴や金平糖の瓶ががキラキラとしている。
これは、目移りしてしまう。
色彩豊かな商品達にひと目で心奪われたエルディアーナは、早速品定めをする。
でも、お屋敷の使用人全員分だと、ここにあるもの全てを購入しなくては、間に合わないだろう。
ーーーーうん、要交渉だね。
「あの、お婆さん、ここにあるものを全て売って頂く事は、出来ますか?」
最初は吃驚と、警戒もした老婆は、理由を聞けば快くエルディアーナに売ってくれた。
しかも、おまけを付けてくれたのだ。
小さな小瓶は丸くて、銀色の蓋に薔薇の花が象っているお洒落で可愛らしい小瓶だ。その中に、青系統の金平糖が詰まっている。
瓶に寄り添う形で小さな人形が括られているが、これもおまけなのかな。
随分と綺麗な顔立ちの人形だ。
大事にしてあげておくれーーーー。
聞けばお婆さんにそう言われてしまう。
こうしてエルディアーナは、ニッコリ笑うお婆さんの言葉に甘えて、オマケの小瓶と人形を受け取ったのだった。
ーーーーそして。
金平糖が残り数少なく、しょんぼりしそうになった日。
文机に落ちていた金平糖。
煌めかしく虹色と白銀色の丸いーーーーそれを手に取った時、綺麗な人形の綺麗な瞳がパッチリ開いた。
人形のバイオレットブルーの瞳は驚愕で彩られている。
人形の口元がパクパクと動くき、唖然とする。
これ、なんてファンタジー!?
そして、オマケのオマケなのかーーーー。
「人形がしゃべった•••••」
それは、ちょっと普通じゃない公爵令嬢のエルディアーナに、人には言えない秘密が増えた瞬間だった。
#####
読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)
次回からは、ギルベルトサイドです。