呪われた精霊の王子様は悪役令嬢に恋をする
どこでも一緒
学園の車寄せで、御者が恭しく馬車の扉を閉める。
やや小さめの二頭引きの馬車はエルディアーナ専用で、落ち着いた中にも可愛らしい雰囲気がある。
護衛の騎士は2人。いづれもテオバルドが厳選した魔法騎士で、右前方と左後方に位置する。
護衛の人数は当初4人だったが、エルディアーナが、学園の行き帰りだけに手練を引き抜くのは心苦しいと、固辞した為だ。
ーーーーお母様の方が大変でしょう?もう直ぐ弟が産まれるのですもの。大切な宝もの。私にはギルがいるわ。だから大丈夫よ、お父様。
優しいメゾソプラノの調べ。
テオバルドには味方も多いが、敵も多い。
自分は大丈夫だから、屋敷の警護に当てろとエルディアーナは言った。
学園の門扉を抜けると、薔薇の唇が真っ先にギルベルトを呼ぶ。
ここにいる事を確かめるように。
「ギル?」
「んー?どうした、エル」
呼ばれて姿を見せてやると、ホッとした、それでいて花が開くような、嬉しそうな顔を見せる。
これが中々可愛くて、癖になるんだよな。
最近じゃ帰り間際になると、エルディアーナからも、ワザと気配を消したりする。
学園にいる日中は、流石にエルが不安になるからやらないが。
ルーシーがジト目でギルベルトを睨むが、知らない振りをする。
ま、まぁ、あまりやらないようには、するかな。
「どうした?顔色はーーーーん、大丈夫だな。疲れたか?」
サラサラの前髪を掬って、おでこを合わせる。熱も無いようだ。
こうすると、エルディアーナは春の陽射しの笑顔を見せる。
そして、決まって頬擦りをするのだ。
「ふふふ、なんでもなーい。ね、ギルは魔獣討伐はお手の物よね。今度の魔法科の授業に、一角ネズミを使うのですって」
そう言えばあの眼鏡教師がそんな事を言っていたな。
「休むか?特に必須では無かった筈だ」
令嬢が戦うなんて、敢えてしなくても良いだろう。
あれは図体こそデカイが、ノロマで攻撃魔法を当てる練習にしかならない。まぁ令嬢用だな。
現に子息達の課題はもっと高いレベルの魔獣を使う。
高いと言っても学園内だ。たかが知れてるが。
念の為に騎士も配置される。討ちもらしを防ぐ為だがーーーーまさか、もしかして。
「エル、その日は休め。どうにも嫌な感じがする」
「え?ギルがそう言うなら。でも、魔獣の討伐をしてみたかったわ。いつもギルが守ってくれるから、安心していられるけどーーーー」
うん。相変わらず素直だなー。益々変な虫を近付ける訳にはいかない。
「ならいいだろう?口を尖らせて、どうしたんだ」
「いつか、ギルとダンジョンに行ってみたいなぁって。もっと体力付けて、寝込まないようになって、それからねーーーー」
アメジストの瞳がキラキラと輝く。
そんな事を言われたら、ギルベルトの答えなんて一つしかない。
「か、考えておくーーーーうん、何とかなるかな?たぶん」
つい、連れていく方向での回答をしてしまう。
が、あれから伊達に母上に会いに行っている訳じゃない。
ギルベルト一人の時は塩対応されるが。
嗄れた老婆の声じゃない、まだ若々しい声をした、見掛けは飴屋の婆さんの言葉が脳内で蘇る。
『そうねぇ。エルちゃんの精霊魂を貴方に入れれば良いのよ。あの子人間だけどね、私達に近いから、取り出せると思うわ。イシュタルが力を与えただけの事はあって、貴方に引けを取らないし、バランスも良いだろうし』
『ババアそれはっーーーー』
『うふふ。あら、いっちょ前に迷うの?そうよねぇ!私の中にあるのは精霊王のモノだし?あら、そうなるとーーーー』
あの時は以前の代金と、エルディアーナ作のクッキーを持って行ったんだが、ババア、相変わらず面白がってやがる。
聞きたい事は聞けたが。
ギルベルトはそっとエルディアーナの様子を伺うと、ルーシーと楽しみが出来たとはしゃいでいる。
出会った頃は、どうせならメリハリのある方が良かったのに、なんて思ったりする事もあったが、エルディアーナの可愛さに負けて、いつの間にかお兄様ポジションにいる。
うん、お兄様、だよな。ロリコンじゃないしな。
だが、こうして見ると、年頃を迎えたエルディアーナは、全体的に華奢で、細い腰付だが、豊かなーーーーそう、豊穣の女神がいらっしゃる。
うん、育ったよなぁ。ギルベルトは感動に震える。
ん?育ったならーーーーあれ。
「ギル、ギル?寒いの?震えているけど••••••帰ったら湯浴みする?ルーシーが、今日はラベンダーの香りを用意してくれたのですって!」
「ん?いや、寒い訳じゃないぞ。おお!?入る、かな?」
ギルベルトも、一緒に入る事を前提にしている会話だ。
ルーシーもだが、エルディアーナはギルベルトの姿が7才位の少年だろうと思っている節がある。
勿論、精霊だから長く生きてるし、精神は見掛けの年齢などに、当てはめる事は出来ない。
人形だから、分かりづらいかも知れないが、本来の姿は青年だ。人間で言うならば、20歳位に見えるだろう。
エルディアーナが子供の時は良かった。暗がりを怖がって、ギルベルトをベットに呼ぶのも。
最早習慣になってしまった、この行為。
(これ、本来の姿がバレたら殺されないか?テオバルドとか、ルーシーとか、あーその他諸々に)
エルディアーナはどんな反応をするのだろう。
怒るか、泣くか?それともーーーー。
だが急に止めると言えば、変な誤解をされそうだし、今更か?
ゆっくりと湯船に浸かりながら、魔獣対策を考えようと、ギルベルトは思う。
休むから大丈夫だと、楽観視は出来ないのだ。
そう、楽観視はしていない筈だった。
やや小さめの二頭引きの馬車はエルディアーナ専用で、落ち着いた中にも可愛らしい雰囲気がある。
護衛の騎士は2人。いづれもテオバルドが厳選した魔法騎士で、右前方と左後方に位置する。
護衛の人数は当初4人だったが、エルディアーナが、学園の行き帰りだけに手練を引き抜くのは心苦しいと、固辞した為だ。
ーーーーお母様の方が大変でしょう?もう直ぐ弟が産まれるのですもの。大切な宝もの。私にはギルがいるわ。だから大丈夫よ、お父様。
優しいメゾソプラノの調べ。
テオバルドには味方も多いが、敵も多い。
自分は大丈夫だから、屋敷の警護に当てろとエルディアーナは言った。
学園の門扉を抜けると、薔薇の唇が真っ先にギルベルトを呼ぶ。
ここにいる事を確かめるように。
「ギル?」
「んー?どうした、エル」
呼ばれて姿を見せてやると、ホッとした、それでいて花が開くような、嬉しそうな顔を見せる。
これが中々可愛くて、癖になるんだよな。
最近じゃ帰り間際になると、エルディアーナからも、ワザと気配を消したりする。
学園にいる日中は、流石にエルが不安になるからやらないが。
ルーシーがジト目でギルベルトを睨むが、知らない振りをする。
ま、まぁ、あまりやらないようには、するかな。
「どうした?顔色はーーーーん、大丈夫だな。疲れたか?」
サラサラの前髪を掬って、おでこを合わせる。熱も無いようだ。
こうすると、エルディアーナは春の陽射しの笑顔を見せる。
そして、決まって頬擦りをするのだ。
「ふふふ、なんでもなーい。ね、ギルは魔獣討伐はお手の物よね。今度の魔法科の授業に、一角ネズミを使うのですって」
そう言えばあの眼鏡教師がそんな事を言っていたな。
「休むか?特に必須では無かった筈だ」
令嬢が戦うなんて、敢えてしなくても良いだろう。
あれは図体こそデカイが、ノロマで攻撃魔法を当てる練習にしかならない。まぁ令嬢用だな。
現に子息達の課題はもっと高いレベルの魔獣を使う。
高いと言っても学園内だ。たかが知れてるが。
念の為に騎士も配置される。討ちもらしを防ぐ為だがーーーーまさか、もしかして。
「エル、その日は休め。どうにも嫌な感じがする」
「え?ギルがそう言うなら。でも、魔獣の討伐をしてみたかったわ。いつもギルが守ってくれるから、安心していられるけどーーーー」
うん。相変わらず素直だなー。益々変な虫を近付ける訳にはいかない。
「ならいいだろう?口を尖らせて、どうしたんだ」
「いつか、ギルとダンジョンに行ってみたいなぁって。もっと体力付けて、寝込まないようになって、それからねーーーー」
アメジストの瞳がキラキラと輝く。
そんな事を言われたら、ギルベルトの答えなんて一つしかない。
「か、考えておくーーーーうん、何とかなるかな?たぶん」
つい、連れていく方向での回答をしてしまう。
が、あれから伊達に母上に会いに行っている訳じゃない。
ギルベルト一人の時は塩対応されるが。
嗄れた老婆の声じゃない、まだ若々しい声をした、見掛けは飴屋の婆さんの言葉が脳内で蘇る。
『そうねぇ。エルちゃんの精霊魂を貴方に入れれば良いのよ。あの子人間だけどね、私達に近いから、取り出せると思うわ。イシュタルが力を与えただけの事はあって、貴方に引けを取らないし、バランスも良いだろうし』
『ババアそれはっーーーー』
『うふふ。あら、いっちょ前に迷うの?そうよねぇ!私の中にあるのは精霊王のモノだし?あら、そうなるとーーーー』
あの時は以前の代金と、エルディアーナ作のクッキーを持って行ったんだが、ババア、相変わらず面白がってやがる。
聞きたい事は聞けたが。
ギルベルトはそっとエルディアーナの様子を伺うと、ルーシーと楽しみが出来たとはしゃいでいる。
出会った頃は、どうせならメリハリのある方が良かったのに、なんて思ったりする事もあったが、エルディアーナの可愛さに負けて、いつの間にかお兄様ポジションにいる。
うん、お兄様、だよな。ロリコンじゃないしな。
だが、こうして見ると、年頃を迎えたエルディアーナは、全体的に華奢で、細い腰付だが、豊かなーーーーそう、豊穣の女神がいらっしゃる。
うん、育ったよなぁ。ギルベルトは感動に震える。
ん?育ったならーーーーあれ。
「ギル、ギル?寒いの?震えているけど••••••帰ったら湯浴みする?ルーシーが、今日はラベンダーの香りを用意してくれたのですって!」
「ん?いや、寒い訳じゃないぞ。おお!?入る、かな?」
ギルベルトも、一緒に入る事を前提にしている会話だ。
ルーシーもだが、エルディアーナはギルベルトの姿が7才位の少年だろうと思っている節がある。
勿論、精霊だから長く生きてるし、精神は見掛けの年齢などに、当てはめる事は出来ない。
人形だから、分かりづらいかも知れないが、本来の姿は青年だ。人間で言うならば、20歳位に見えるだろう。
エルディアーナが子供の時は良かった。暗がりを怖がって、ギルベルトをベットに呼ぶのも。
最早習慣になってしまった、この行為。
(これ、本来の姿がバレたら殺されないか?テオバルドとか、ルーシーとか、あーその他諸々に)
エルディアーナはどんな反応をするのだろう。
怒るか、泣くか?それともーーーー。
だが急に止めると言えば、変な誤解をされそうだし、今更か?
ゆっくりと湯船に浸かりながら、魔獣対策を考えようと、ギルベルトは思う。
休むから大丈夫だと、楽観視は出来ないのだ。
そう、楽観視はしていない筈だった。