結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
「離婚だ。お前とはこれ以上やっていけない」

低く響いた父の言葉にさらにびっくりした。
父も母を貶める瑠璃さんの言葉を聞いて、私と同じように怒りを感じたんだろうか。

「……何言ってるの?」
「離婚だ」
「嫌よ。絶対に離婚しないから」

起き上がった瑠璃さんがバッグとコートを掴んで病室から出て行った。
その瞬間、いててと言いながら父がベッドに横になる。

「お父さん、腰大丈夫?」
「桜子。すまなかった。お父さんが悪かった。本当にすまなかった。ずっとお母さんと桜子に対して申し訳ないと思っていたんだ。本当にすまない」

人が変わったように謝罪する父を見て、腹が立つ。

「そう思うんだったらお母さんのお墓の前で土下座して」
「もちろん。そうする。お父さんは自分勝手だった。お父さんの心が弱かったんだ」

うっと、言葉を詰まらせて涙ぐむ父を見て、母の葬儀の後、一人で泣いていた父を思い出した。

――知子、ごめん。知子、ごめん。

母の遺影に向かってそう言っていた。
父はずっと母に対して罪悪感があったのかもしれない。
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