結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
『あの男は上司だったんですか。凄く睨まれました』
「先生が睨まれるような事をしたからでしょう? 白昼堂々と私を抱きしめるのはやめて下さい」
『桜子を逃さない為です』
「先生って、強引ですよね。この間のキスだって強引だった」
『ちゃんと聞きましたよ』
「私はダメと言ったのですが」
『あのダメはいいよに聞こえましたから』
「勝手な解釈しないで下さい。それに大学生の時は聞いてもくれなかった」
『大学生の時?』
「軽井沢のゼミ合宿。酔った先生にキスされました」
『僕が大学生の桜子にキスしたんですか?』
「しましたよ。先生の部屋にレポートを提出しに言ったら、偶には笑って下さいと言って、笑って差し上げたら、私にキスしたんです」
『それはすみませんでした』

クスッと笑った穏やかな声を聞いて、言うのは今だと思った。

「先生、結婚できません。私との結婚の話はなかった事にして下さい」
『……どうして?』
「先生の事が大嫌いだからです。顔を見るのも嫌です。先生と結婚したら私は不幸になります」

唇が震え、涙が零れる。
先生が何か言おうとするのを遮って、電話を切った。
こんな電話の切り方をするのは卑怯だと思う。でも、こうしないと先生と離れられない。

先生、ごめんなさい。
反対の事を言いました。

私の家族は最低なんです。最低な家族の中で育った私は先生に相応しくありません。
だから、私の為に全てを捨てないで下さい。先生を不幸にしたくないんです。

どうか西園寺詩織さんと幸せになって下さい。
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