結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
「桜子が実家で邪魔物扱いをされているという話を聞いた時、僕と同じ境遇だと思いました。だから、桜子の事が心配になって、気づいたら目が離せなくなっていました」

先生が私を心配する理由がわかった。私たちは同じ境遇だったんだ。
先生も辛い子ども時代を過ごして来たんだ。

「先生も辛い想いをして来たんですね」

先生が頷く。

「だから、勉強に逃げました。そのおかげで人の心に興味を持つようになったんです」
「私はお菓子作り。母が残してくれたレシピノートがあって、それが私の支えでした」
「いつか手作りのマドレーヌをくれましたね。レモンの風味がする優しい味だった。また作ってくれますか?」
「もちろん。いつでも作りますよ」
「ありがとう」

先生の手が私の頬に触れる。とても温かい手。その手に私の手を重ねると、先生が微笑んだ。
今こうして先生と一緒にいる事が幸せ。

「先生は私の質問に『僕が君の全てを受け入れます』と答えてくれましたね。あの言葉に救われました。この世に一人でもそう言ってくれる人がいると思ったら、一人で生きていけると思ったんです」
「良かった。ちゃんと僕の言葉は桜子に届いていたんですね」
「はい」
「もう二度と人を愛する事はないと思っていたのに、君が愛しい」
「由梨花さんを亡くしたから?」

先生が驚いたように目を見開いた。

「なぜ由梨花を?」
「葉月りつこさんに聞いたんです」
「りっちゃんに会ったんですか」
「はい。先生と婚約中に由梨花さんがお亡くなりになった事を聞きました」
「そうですか」

微笑んだ先生が、寂しそうに見えてドキッとした。
由梨花さんの名前は出さない方が良かったかも。
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