結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました

先生と再会



4歳の時に母が亡くなり、父の秘書だった瑠璃(るり)さんが後妻に入ってから、家の中では、いつも異母妹の姫香(ひめか)と瑠璃さんが中心で、父は私を疎ましく扱うようになった。居心地の悪い家を早く出たいと思いながら、感情を押し殺して生きて来た。そして私は大学進学と同時に家を出た。

最後に父に会ったのは卒業の報告に行った時だった。その時、父に「私はもう家には帰らない。一人で生きていく」と宣言した。それ以来父とは直接会う事はなかった。

そんな父から久しぶりに連絡があった。

桜子(さくらこ)、元気にしているか。偶には一緒に食事でもどうだ。可愛い娘の顔が見たいんだ』

父の言葉が自分でも驚く程嬉しかった。その週の土曜日にベリが丘タウンにあるホテルで父と会う事になった。

ベリが丘タウンは憧れの街として、話題になっているスポットだった。父と待ち合わせたホテルは全室がオーシャンビューテラス付きのラグジュアリーなホテルとしてテレビで紹介されていたから楽しみだった。

二月最初の週の土曜日、電車でベリが丘タウンに向かった。服装にはかなり気を配り、ハイブランドのミッドナイトブルーの上品なワンピースを着て行った。一人でちゃんとやっている姿を父に見せたかった。

ベリが丘駅の南口を出ると、日差しが暖かかった。今日はよく晴れている。街のシンボルのツインタワーが目に留まった。最上階は展望台になっているらしい。帰りに寄ってみようか。そんな事を考えながら、父と待ち合わせたホテルに向かった。



「いやあ。綺麗なお嬢さんですね」

向かい側に座る脂ぎった中年男が無遠慮な視線を私に向けてくる。ホテルのレストランに行くと、個室に案内され、そこには父と瑠璃さんと知らない男がいた。瑠璃さんは来るかもしれないと予想していたが、全く知らない他人が同席しているとは思わなかった。

男は父の会社と取引がある藤堂建設の専務、藤堂剛(とうどうつよし)さんだと説明されて、父の立場がわかった。
藤堂建設は大手の建設会社で、父が経営する九条建設はその下請け会社になる。つまり藤堂さんは一生お付き合いをしたい大事な人なんだろう。その事を理解した瞬間、嫌な予感がした。
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