結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
「お断りします。先生と私では住む世界が違います。北沢不動産の御曹司だなんて聞いたら荷が重すぎます」
「家の事は気にしなくて大丈夫です。僕は次男ですし、あまり付き合いはないですから」
「そう言われても気になります」
「では、どうするんですか? あの藤堂という男と結婚するんですか?」
「しませんよ。一人で生きていくんです。ですから、先生とも結婚できません」
「強情ですね。でも、僕も諦めませんから」

先生の手が伸びて私の顎を掴む。くいっと上を向かされてキスされると思った時、先生の唇が私の頬に触れた。柔らかな唇の感触を感じて心臓が飛び出そうになる。

指一本触れないと言ったくせに、いきなり何するの!

「な、何するんですか!」

ドンッと先生を突き飛ばした。

「僕のものだという印をつけたんです」
「はあ?」

もうこの人が何を考えているのか全然わからない。
睨むと先生が挑発的な笑みを浮かべる。

「ほらね、九条さんは僕に全くときめかない。だから欲しいんです」

とんでもない人に目を付けられた。

「どうぞ私の事は諦めて下さい。時間の無駄ですから」
「ご心配なく。僕は気が長いので。九条さんが承諾してくれるまでプロポーズしますから」

うっ。ああ言えば、こう言う。
なんで先生はこんなに私に執着するの?

「何度プロポーズされてもお断りしますから。失礼します」
「帰るんですか?」

先生の言葉を無視して、エレベーターに向かう。

「九条さん、来週の土曜日デートしましょう」

エレベーターに乗った私に先生が言った。

デート? 絶対に行くもんか。
閉まるボタンを連打してエレベーターの扉を閉めた。

頬が熱い。鼓動が速くなっている。封印していた気持ちが飛び出しそうになった。私が先生を遠ざけたい本当の理由、それは先生を好きだから。そんな事、絶対に先生に言えない。

あっ、もう、なんで先生と会ったんだろう。神様は意地悪だ。卒業して先生の事を忘れていたのに。
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