結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
「九条様、どうぞ」

後部座席のドアを鈴木さんが開けてくれた。

「ありがとうございます」
緊張しながら車に乗り込んだ。レザーシートだ。座り心地がいい。社長になった気分。
待遇が物凄くいいのは先生が北沢不動産の御曹司だからだろうか。大した権力はないと言っていたけど、先生ってセレブだな。

運転席には真面目そうな中年の男性が座っていた。バックミラー越しに目が合い、慌ててお辞儀する。この方も北沢不動産の方だろうか。

「では、ご案内いたします」
鈴木さんが助手席に乗ると、車が発進した。

「モニターをご覧下さい」と鈴木さんに言われて、後部座席用の液晶モニターに視線を向ける。
ベリが丘タウンの地図が表示されていた。

「今、走っているのがBCストリートになります。BCストリートの左手側がビジネスエリアで、街のシンボルのツインタワーやホテル、オフィスビルなどがございます。右手側がサウスエリアで、ショッピングモールとサウスパークという大きな公園がございます。本日ご案内する賃貸マンションはサウスエリアにございます」

サウスエリアなら、先生が住んでいるノースエリアとは違う地域だ。同じ街に住んでもあまり顔を合わせる事はないだろう。顔を合わせなければ結婚を迫られる事はない。気楽でいいじゃないと思うけど、今日先生に会えない事がちょっと寂しい。こんな事を思うなんて、私、どうしちゃったんだろう。
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