結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
「な、何するんですか。離して下さい」
「君が小さな女の子に見えて心配になるんです」
「私は小さな女の子ではありません」
「わかっています。でも、心配になるんです」

見上げると心配そうな瞳とぶつかる。
目を逸らさなきゃいけないと思うのに、先生の瞳から逸らせない。鼓動が大きくなる。先生に聞こえそうで怖い。

先生から離れようとしたら、顎を掴まれ、先生の方を向かされる。先生の唇がゆっくり近づく。
まさか、このまま先生とキス……。そう思った時、先生がハッとしたように私から離れた。

「すみません。今のは忘れて下さい」

背を向けた先生が言った。
忘れて下さいって何? 私にキスしようとした事?

「とにかく君が心配だっただけですから。下心はありません」
「心配だったから私を騙して契約させたんですか? 違約金百万円は私が出て行かないようにする為でしょう? どこまで汚いんですか」
「仕方ないでしょう。僕が大家だとわかったら九条さんは契約を解除すると言いだすんだから」

無邪気に喜んでいたのがバカみたい。
先生の手のひらの上で転がされていたと思ったら腹が立つ。

「騙すなんて最低。先生には失望しました。失礼します」

リビングを出て行こうとした時、腕を掴まれる。強い力に驚いて振り向くと、叱られた子どものような、弱々しい表情をした先生がいた。
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