結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました


土日は引っ越しの片付けをしながら先生の事が頭を離れなかった。先生に会いたくて堪らなかったけど、連絡する勇気もなかった。臆病な自分が嫌になる。

月曜日は何とか気持ちを切り替えてベリが丘支店に向かった。
今日は初出勤だった。

銀行までは徒歩15分。引っ越したおかげで通勤が楽になった。

駅前にある三友銀行は前の支店よりも新しい二階建ての建物だった。建物の中はよくある支店の空間となっている。1階の出入口付近にATMコーナーがあり、その奥に窓口が並んでいる。そして窓口の奥には机と椅子が並んだオフィスとなっている。私は融資課に配属され、前の支店と同様、個人向けの融資の担当となった。

ベリが丘支店は50名の行員が働いていて、その中で融資課に所属する人はパートさんも入れると12名いた。女性は私を入れて4名なので、すぐに名前を覚えられた。午前中は新しい場所に緊張しながら何とか仕事をこなした。午後は窓口でローンの相談に来るお客様の対応をしていた。

「なんで審査が下りなんいんだよ!」

ローンの申し込みに来ていた二十代の男性のお客様が突然、声を荒げた。
まさか怒鳴られるとは思わなかったからびっくりした。

「申し訳ございません。審査の結果、お客様のご期待に添えない結果となりました」
「だからなんでだよ!」

ハッキリ言うとお客様に信用がないという事だけど、そんな事を言えば火に油を注ぐようなものだから言えない。おそらくこのお客様はカードなどの支払いを延滞させた事があるのだろう。そういう情報は信用情報機関に登録され、ローンの審査にマイナスの影響を与える。

「当行の融資は基準が厳しいので、申し訳ございません」
「なんだよ。お気軽にお借り下さいなんて言いながら貸さないのかよ!」

男性がローンの案内が書いてあるパンフレットを私に向かって投げ捨てる。パンフレットを避けようとした時、パシッと目の前で誰かがキャッチした。

「お客様、カードなどの支払いを延滞させた事はございませんか?」

涼やかな男性の声がした。ハッとして後ろを見上げると、同じ融資課の(みなみ)係長が私の後ろに立っていた。
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