結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
次の日、融資の窓口にいたパートさんが後方で事務をしていた私の所に慌てた様子でやって来た。

「お客様に九条さんを出せと言われました」

窓口を見るとピンクのスプリングコートを着た姫香が足を組んで、カウンター前の椅子に座っていた。
明らかに不機嫌そう。不機嫌な顔をしていても、目鼻立ちの整った顔は美人だ。それに自分の容姿に自信があるから私と違って堂々としている。姫香に会う度にコンプレックスを刺激される。父と瑠璃さんにお姫様のように大事にされていた姫香が子どもの頃は羨ましかった。

はあ。胃がチクッとする。
きっと前の支店で私がベリが丘支店にいる事を聞いて来たんだろう。

「私のお客様です。代わります」

パートさんに言い、窓口に出た。

「なんで無視するの? 桜餅のぶんざいで」

桜餅とは小学生の頃の私のあだ名だった。桜餅のように丸い体型だったからそう呼ばれていた。
痩せて標準体型になっても、姫香は機嫌が悪いと私の事をそう呼ぶ。

「何のご用ですか? まさかローンを借りに来た訳ではないでしょう?」
「お小遣いちょうだい。5万でいいから」

当然の権利のように要求する姫香に呆れる。
今月で大学を卒業して4月から社会人になるんじゃなかったの?

「九条建設に就職が決まったんでしょ?」
「まさか。私が実家を継ぐ訳ないでしょ。それに留年したからまだ大学生。だからお小遣いちょうだい」

私に向かって手を伸ばす姫香に頭が痛くなってくる。

「お金が欲しいんだったらアルバイトすれば?」
「読者モデルやってるし。でも、読モってギャラが雀の涙なんだよね。ねえ、5万でいいからちょうだい。くれないと騒ぐよ。そうなったら桜餅困るよね?」

毎回、こんな風に脅される。
断るべきだと思うけど、それでも私を頼って来る妹だと思うと切り捨てられない。
母親違いでも、姫香は肉親だ。

「九条さん、大丈夫ですか?」

小さくため息をついた時、後ろから声をかけられた。南係長だ。
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