クズな君と恋したら
人の正体、なんて考えたことがなかった。
だって、高校生は高校生でしかないし、ボディガードはただの雇われたボディガードでしかない。
そんなこと、自分の中では理解し切ったことなのに。
こんなにも人に対して「何者なのか」という疑問が湧き上がったことなんて人生で初めてだった。
目の前にいる、漆黒の瞳を持ったボディガードに対して。
「俺……?ボディガードだけど」
「わ、わわ、わかってるわよ!」
そんな質問をした私がバカだった!
なんだか恥ずかしくなって、水上から目を逸らすと、水上がクスッと笑う声が頭上から聞こえた。
「……いつか、ね」
いつか、ってなによ。いつのことよ。そんな文句はぐっと喉の奥にしまっておくことにする。
「怖い?」
「っ、別に」
私を軽々と抱きかかえる水上の片手が、私の頬に伝う涙をそっと拭った。
「強がんなくていーよ、強気なお姫さん」
何を考えてるか、わかんない。
何者なのか、わかんない。
私の新しいボディガードは、わかんないことばかりだ。