クズな君と恋したら
「瀬戸様、よければ少しおはなししませんか?」
「あぁ、ごめんなさい。今は1人になりたいんです」
断っても断っても新しい男の人が私に話しかけてくる。
案の定、私が笑顔を保つことができるわけがなく。
表情筋がもう壊れそうなくらいほっぺが痛いくらい。
私は、また話しかけてくる別の男性に踵を返して、会場を出ると、人気のないバルコニーに出た。
「はぁ……疲れた」
夜の冷たい風が、暖房で火照った体を少すぅっと冷やしていく。
どうして挨拶をしただけなのに、求婚されなきゃいけないのよ。
ふぅーっと息を吐き出すと、白い息は溶けるように消えていった。
それに、もし綾都がいれば、こんなに退屈することもないのに。
「……今頃何してるのかな。綾都」
もしかして街中を歩いてて、たくさんの女の人たちに囲まれてたりしないかな。
ちゃんとごはんも食べてるのかな。
……そうだ。
どうせパーティーで出されるバイキングの食事はほとんど手がつけられることもなく余るんだから、綾都に持って帰ってあげよう。
そして今日帰ったら、綾都と一緒に冷めちゃった料理を食べる。
もしかしたら、喜んでくれるかも。
そう思い立つと突然、ぐったりしていた身体が軽くなった。
……よし、会場に戻ろう。
私がいないってわかったら、きっとお父様も心配する。
なにより、綾都と一緒に食べれる料理を探さなきゃ。
くるりと振り向いた瞬間だった。
「っあ……」
首元に衝撃が走ったと思うと、途端に視界が暗くなって……。
身体から力が抜けていく。
「あははっ、ほんと笑える」
そして、意識がおちる寸前。私を見下ろして馬鹿にするような笑みを浮かべた浮本さんと、目が合った___。