クズな君と恋したら




「あやと……っ!ねぇ、やめてっ!!」


「静かにしてな、殺すぞ」


「やだぁ……っ」



割れた窓ガラスから吹き込む真冬の風で、暖かかった部屋の温度が急激に下がっていた。

そして、夜の暗闇の部屋には、私の泣き叫ぶ声と、生まれて初めて聞いた人を殴る鈍い音。



「きゃははっ!さっきまでの威勢の良さ、どこ行ったの?ダッサ!」


バチンッ!と、力無く項垂れた綾都の頬を浮本さんが叩く。

なんで……っ!

私の手首を拘束している男をヒールで蹴ると、さらに強く抑えられて思わず小さくうめく。


なんで私には、何もできないの……?


綾都のこと、助けられないの……!?


私のかわりを請け負って、意識を失うか、失わないかのギリギリで殴られ続ける綾都を見ていられなくて目をギュッとつむる。


もしも私がひとりでバルコニーに出なければ……!

あの時……キャンプの下山途中、浮本さんについていかなければ……っ!



こんなことには、ならなかったのに……。



「……夏芽」


ボロボロと涙をこぼして泣き叫ぶ私の名前を、綾都が呼んだ。

目を開けると、やはり傷だらけの顔をした綾都が私に微笑んでいて。



「俺死ぬかも」


「っ……!」



なんでこんな時に、そんなこと言うのよ……っ!

冗談っぽく笑って言ってるけど、これ以上やられたら、綾都……死んじゃうよっ!


嗚咽ばかりで何も言葉を発せない私に、綾都は言った。



「でも、お前だけは守るよ」



だから、涙は引っ込めな。___そう言って、浮本さんを挑発するように笑うと、案の定、浮本さんは怒りが頂点に達し___。



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