クズな君と恋したら
あれから、数週間が経った。
10月に入り、夜になれば肌寒い季節。
数週間前までは、汗をかくほど蒸し暑かったのに、今は嘘みたい。
相変わらず水上は私のボディガードとして、毎朝一緒な登校をしているけれど、私のわがままにより、校門あたりで別れ、時間差をつけて教室に入るようにしている。
だ、だってだって……!
私は、自分の席……ではなく、隣の席の水上の席に群がる女子たちに目を向ける。
もしも私と水上が同じ家に帰っているだなんてことが女子たちにバレたら、間違いなく私は……!
想像しただけでも身の毛もよだつ。
「夏芽、次調理実習だよ!」
「あ、ほんとだ!楽しみだね……!」
水上ファンの女子たちで座ることすらできなくなっている状態の私の席を見ながら盛大にため息をついてる私の肩に、ぽんっと心の手が置かれる。
2限目はずっと楽しみにしていた調理実習。
私の大好きなドーナツを作るみたいで、朝からずっとワクワクしていた。
「夏芽、ドーナツ好きだもんね」
「うんっ、ドーナツは世界を救うと思ってる」
「あははっ、そんなわけないでしょー」
そんなくだらない話をしながら、心と家庭科室に向かった。
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「はーい、じゃあ生地は作れたかなー?」
家庭科の先生がみんなの様子を見て回りながら、進行状況をまとめていく。
「うわぁ、生地だけでも美味しそう……」
班が一緒の女の子と、苦戦しながらも生地を完成させる。
「きゃーっ、すごいね水上くん!上手!」
「お料理もできるのね!」
そして、席が隣である水上も、もちろん私と一緒の班なわけで。
クラス内で……いや、もうお店に売ってるんじゃないかってくらいのレベルで、ドーナツの形がきれいにできていた。
……悔しいけど、すっごく上手。
しかも、女の子たちにチヤホヤされてずっとニコニコしちゃって。
そんなの、ただ愛想振りまいてるようにしか見えないよ。
私を守るためだけに、「この学園に転校してきた」なんて盛大な設定まで作ったくせに。
「ねぇ、そのドーナツって余るんだよね?誰かにあげる予定とかあるの〜?」
「えっ、私……欲しいな……?」
ベタベタ腕に張り付いてくる他の班の女子に嫌がる顔も見せずに、曖昧に質問や言葉を交わしていた。
___が。
余ったドーナツを誰かにあげるのか、そんな質問を投げられた時、不意に彼と目が合う。
あ、やばい。
見てたの、バレちゃった。
慌てて目を逸らすけれど、もう手遅れだったようで。
「……夏芽にあげる」
唐突に水上の口から飛び出た私の名前に、みんなの視線が私に集中するとともに、教室内が静まり返った。