クズな君と恋したら
「っ、綾都……!やだよっ」
「じゃーね」
ひらひらと手を振って窓の淵から姿を消す綾都。
どんどん部屋の窓から出てくる煙が濃く、多くなってきて、それを呆然と見つめたまま非常階段の上に座り込んでいると、急に後ろから抱き上げられた。
「夏芽さん……っ!アンタまで死ぬつもりですか!」
耳元で叫ばれ、ハッと我に帰る。
伊吹くんは、危険にも関わらず、ここまで私を迎えにきてくれたようで、怒ったように私の肩を揺さぶっている。
「伊吹、くん……あやとが……綾都が……っ!」
思い切り声をあげると、伊吹くんも一瞬だけ悔しそうな、泣きそうな顔をしてからパン!と自分の頬を両手で叩いた。
「とにかく降りましょう!もう階段が崩れる……やべっ!」
伊吹くんは私の背後を見たかと思うと、すごい形相で私を抱き抱えて階段を駆け降りた。
「っ……!」
伊吹くんに抱えられ、後ろを見ていたからわかる。
脱出してきた窓から炎が噴き出て、階段の先端が数十センチの足場で繋がれている状態だった。
あの足場が切れてしまえば、完全に階段が壊れて……綾都が脱出する貴重なルートすらもなくなってしまう。