クズな君と恋したら




「私は帰るの……!どいてっ!」


「いけませんお嬢様……!」


今度は私の肩をガッシリと掴んで離してくれない執事。


「なんでよっ」

「約束ですので!」

「あっちは約束守ってないじゃん!」


そんなこんなで、ぎゃあぎゃあと言い合っていた時だった。






「変わんないね、強気なお姫さんは」





扉が脚で乱暴に開かれたかと思うと、いつの日か聞いたことのある声と言葉。




「え……?」




私のいる位置からは、開いた扉の奥にいる人のことは見えない。

……まさか……いや、そんなわけないか。

でも……。


頭の中がはてなマークでいっぱいになった私は、何をすることもできず、ただただ声のした方を見つめるだけだった。


いつのまにか私を引き止めるのに必死だった執事もシェフも、さっきの位置に立って背筋を伸ばしている。


もしかして、婚約を申し込んできた……。


それが誰か……そんな疑問なんて、頭の中では怒りにかき消され、無意識に私は声の主の方へ歩いていた。



「私には婚約している人がおりますので、お断りさせていただきます」



ズカズカと歩きながら、強く言葉をぶつける。

どんな人でも、婚約は絶対にしない。


椅子に置いてあったバッグを乱暴に掴むと、なるべくその人の方は見ないように、下を向きながら部屋を出ようとした。



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