クズな君と恋したら
クズなボディガード
失恋とボディガード
コンコンコン、と、重厚な茶色い扉をノックすると、数秒ほど経って「入れ」と促された。
「失礼します」
部屋に入ると、相変わらず厳格な雰囲気のお父様と___。
誰……?
来客時のための黒いソファーには、スーツを着た男の人が座っていた。
「今日からまた、お前に新しいボディガードがつくことになった」
___あぁ、また。
新しいボディガード、その単語を聞くのは、今日で何度目だろう。
5度目?……いや、6度目くらい……か。
そんなしょうもないことを考えながら、"新しいボディガード"を見つめていると、その人はソファーから立ち上がり、私の前にひざまずいた。
「今日から夏芽様のボディガードに配属されました。___水上綾都と申します」
顔を上げた新しいボディガード___水上綾都は、端正な顔立ちをしていた。
黒くてサラサラな前髪から覗く、漆黒の瞳と目が合う。
"見えない"
それが、彼に対する第一印象だった。
スッと通った鼻筋に、三日月のように緩く弧を描く唇。
___そして、そこの見えない漆黒の闇に包まれたような、そんな瞳。
「話は以上だ、出ろ」
「……はい。失礼しました」
瀬戸財閥の令嬢である私___瀬戸夏芽の日常は、ただ同じ毎日を繰り返すのみ。
今日も、明日も、明後日も。
でも、自分の中では、世の中の普通の女子高生のように、毎日が楽しい非日常をどこかで求めていた。
そんな夢、叶うはずがないのに。
私はお父様の書斎を後にすると、自分の部屋に戻り、思いっきりベッドにダイブした。
___すでに私の非日常が始まっていることにも気づかずに。