クズな君と恋したら
少しだけあたりを散策したら、テントに戻ろう。
寝れるかもしれない。
そう思い、テントから少し離れたところにある展望台に登る。
「……わぁ」
秋の虫の大合唱が響く中、展望台から空を見上げて、思わず声が漏れてしまう。
そこには、雲ひとつない紺色の空に、いくつもの星が瞬いていた。
そして、空の真ん中には金色のまんまるなお月様。
___そっか、少しだけあたりが明るかったのは月明かりが地球を照らしてたからなんだ。
柵に手をかけて、空を眺める。
「起きててよかったかも……」
呟いた私の声は、虫の奏でる音色にかき消されていく。
深夜って、こんなにも綺麗な時間帯なんだなぁ。と、感嘆のため息をついていると、不意に後ろから、何か温かいものに包まれた。
「わっ……だ、誰……!?」
「しーっ」
思わず驚いた声をあげると、私の横に立ったその人物は、人差し指を口に当てて静かにするよう促す。
スラリとのびたこのシルエットは……
「綾都……?」
「だいせーかい」
闇夜に光る月がよく似合う、綾都の姿だった___。
見ると、私の肩にかけられているのは、綾都の上着。私よりも身長が20センチ以上高い綾都の上着は、私が着るとダボダボでオーバーサイズ。
でも、さっきまで綾都が着ていたからなのか、上着に別のぬくもりを感じた。
「あ、ありがと……」
それにしても、なんで綾都もここにいるんだろう。
もしかして、私と一緒で眠れなくなっちゃったのかな。
「いつ起きたの?」
そう問いかけると、綾都のピアスがチャリンとなって、それまで空を見ていた彼の視線が私に向けられるのを感じた。
「ずっと」
「えっ、ずっと?」
「うん、ずっと」
ずっとって……ほんとにずーっと起きてたの!?
「どうして?」
疲れてるから、寝ようと思えばすぐ寝れるんじゃないの?
でも、綾都は全く疲れている素振りなんて見せない。
「仕事がちょっと長引いて」
仕事って、私のボディガードじゃないの……?
どちらにしろ、一睡もしてないらしい綾都の体が心配。
さっきからヴーヴーと鳴り続ける綾都のスマホ。
仕事って、本当になんのことなんだろう……。