クズな君と恋したら
___ゾッとした。
今までも、怖いと思うことはあった。
でも、今、私に向けられた彼の瞳は格別で。
真っ黒だ。
「綾都?」
「選ばないなら俺が選ぶね。殺すよ」
「綾都!」
パシンッ!と、乾いた音が部屋に響き渡る。
綾都、なんだかおかしい___いや、違うか。
これが、本来の綾都なのかもしれない。
喜怒哀楽という感情を全て捨てた人間、それが綾都……?
「いい?あなたは私を守る存在なの。私を守る義務がある」
でも、今のはさすがに行き過ぎだ。
もしも私が止めなければ、今の彼は人を情もなく殺してしまうだろう。
だから、私が止めなければ。
「私はあなたに何を与えられるか、私にはわからない。……でも、いつも一緒にいるんだから、楽しいことは共有したいし、綾都に辛い事があったなら、一緒に悩んで、元気づけたいって思ってる」
だから___そこまで言って、一呼吸置く。
綾都、感情がないワケじゃないんだよね。
だって。
___だって、今、ほんの少しだけ綾都の瞳が揺らいだもの。
「綾都はただ、私を守って。私が綾都を守るから」
言葉が少し変かもしれない。……いや、合ってるか。
今、どこかで封じ込められている綾都の感情を、私は開いてあげたい。
___嬉しいことも、悲しいことも。
一緒に共有したい。
ただのボディガードだとしても、こんなにも一緒にいて、時には命を助けてくれた綾都に何も返せないなんて悔しい。
だから、教えたい。
「浮本さんには何もしなくてもいいよ。そりゃあ反省はしてもらいたいし、もうこんな思いはしたくない。浮本さんが反省して、それでももしものことがあっても、私には綾都がいるんだから!」
口角をニッと上げて、綾都に向かってピースを作る。
「……笑わなくても、いいからね」
少しだけ驚いたように私を見つめた綾都は、やがて微笑んだ。
「俺がいる、ね」
___初めて、素で微笑む綾都を見た。そんな気がした。