クズな君と恋したら
「心の準備は整いましたか?」
「うん」
「ほんとーに驚く準備しててくださいね!?」
「うん」
「本当にいいですね!?」
「いいって言ってるでしょ」
さっきから私に目隠しをしておいて、周りではしゃぎ立てる伊吹くんに、さすがにイラつく。
「あはは、すんません。それじゃ、目隠し取りますね!」
黒い布が取れて、まばゆい自然光に眉を顰める。
一瞬、ぼんやりと視界が揺らいだものの、すぐにピントが合う。
___そして、私の目の前に置いてあるもの。
「じゃーん!綾都さんからの、贈り物でぇーっす!」
「あ……」
ベッドにちょこんと乗っているソレ___。
『こんなものに縋ってるから、いつまで経ってもみんな離れてくんだよ』
綾都の冷たい言葉と共に、蘇る記憶。
ずっとずっと、あの日から大切にしていたウサギのぬいぐるみが、ベッドに座っていた。
「こ、これ……」
「綾都さんが、知り合いの仕立て屋に頼んで特別に直してもらったんですって!」
あの綾都さんがぬいぐるみを引きちぎるなんて、らしくないですよねぇ。なんて息をついている伊吹くんをよそに、私はウサギのぬいぐるみを抱きしめる。
……すごい。元通りだ。
若干、白い糸で縫い合わされたあとはあるものの、よく見ないとわからないほどで目立っていない。
いつのまにか私の部屋からなくなっていたから、綾都が捨てちゃったのかなと思っていたけれど、綾都はちゃんと直そうとしてくれたらしい。