クズな君と恋したら
「……で、断るの?断らねーの?」
「……」
いけない。
綾都の姿を久しぶりに見ただけなのに、それだけでなんだか気持ちが「断る」の方に大きく傾いてしまったような気がした。
それに、なんで綾都がここに……。
「伊吹に聞いたよ、高木に婚約を申し込まれたって。ねー、だから俺仕事ほったらかして帰ってきちゃった」
「え……」
仕事ほったらかしてだなんて、さらっとやばいことを口にする綾都。
「ダメだよ、戻りなよ。仕事、頑張ってるんでしょ?」
さすがに自由奔放すぎる綾都でも、仕事を投げ出すのは良くないでしょ……。
苦笑を浮かべながら、そう促すけど、綾都は離れていくどころか、ずんずんと私の方へ……。
「で?断んの?断らないの?」
私のベッドの隣まで迫る綾都。
しかも、顔は笑ってるけど、目の奥はまるで笑っていない。
「……ことわり、たいけど……」
「……けど?」
なんて言えばいいかわからなくて、言葉に詰まる。
そんな私を、綾都はジィーッと見つめて待ってくれている。
「どうせ決められた結婚するんだから……もう承認したほうがいいのかなって……」
苦し紛れにそう答える。
「それに……断る理由もわかんない。……っ、したいわけでもないのに……」
婚約___それは、自分自身のこれからの人生を大きく変えるもの。
よく考えなきゃいけないのはわかっているけど、やっぱり、1人じゃ何も考えられないし、どうしたらいいのかわかんないよ……。
視界には、涙のフィルターがかかって滲んでいく。
「男に振られた時のあの威勢のよさはどこいったんだか」
ふぅ、と横でため息をつく音が聞こえる。