クズな君と恋したら
……やっぱり、綾都も「結婚しとけば?」とか言うんだろうな。
綾都にまでそんなこと言われたら……私、そうするしかなくなるのかな。
自分の中でわずかに芽生える「引き止めてほしい」という望み。
「まず、自分がどーしたいかでしょ。したくなけりゃ、しなきゃいーんじゃない?」
「でっ、でも……そんなの、ただの私のわがままで……瀬戸の苗字に恥じぬようにしないとっ」
港くんだって、勇気を出して婚約を申し込んでくれたはずだし。
それを「したくないからしません」なんて理由で断れば、ただのわがままなやつ、と思われてしまう。
お父様にはとても顔向けできない……。
「___それでお前は幸せになるの?」
「っ……」
数十秒の沈黙があった後、綾都が少し怒ったような低い声で私に尋ねる。
私が幸せにならなくたって……。
「お父様のためになるなら___」
「ちげぇよ」
ビクリと肩が大きく跳ねる。
さっきよりも、格段に低い声。
見上げると、口もとを歪めた綾都の表情。
「それだったら、夏芽が踏み台になるんだよ。瀬戸財閥の」
ドキリ。
心臓が、大きくひと鳴りした。
「でも、だからって……」
断ってもいいの……?
「あー、本当にお前は、いつも人のために。ねー、ちゃんとわかってんの?結婚するって意味」
トン、と肩を押されてバランスを崩した私はベッドに仰向けになってしまう。
もう、そんなのわかんないよ……。
「幸せになるためでしょ、なんでわかんないの?」
綾都の金色のピアスが、すぐそばでなったかと思うと、綾都は私に覆い被さる。
「理由がないなら、俺がなるよ」
「っ、え……?」
漆黒の瞳が、私を捉える。
綾都が……理由……?
いまいち理解できていない私に、綾都は少しだけ切なそうに唇を歪めた後、いつもみたいに意地悪く笑った?
「俺と婚約するから無理って、言えば?」