クズな君と恋したら
綾都の風邪
港くんとの婚約を断ってから、数週間が経った。
あれから、綾都は仕事が長引いたようで、いまだに顔を合わせていない。
……綾都、大丈夫かな。
港くんに婚約を申し込まれた時に、綾都が飛んで帰ってきたけれど、その時の綾都は少し疲れ気味に見えた。
きっと仕事で忙しいんだろうなぁ。
伊吹くんも、「綾都さん大変そうですよー」って言ってるくらいだし……。
そして、港くんともあまり話していない。
変わらずに笑顔で接してくれるものの、あれから私たちの間に、少し気まずい空気が流れていた。
「はあ……」
伊吹くんが運転してくれた車を降りて、家の玄関に入る。
___ふと、視線が玄関の隅に置いてある革靴に行った。
とても久しぶりに見た靴。
「この靴……」
少し茶色味がかかった、光沢感のある大きな革靴。
___間違いない、綾都の靴だ。
も、もしかして、帰ってきたの……?
慌てて自分の部屋に駆け込むけど、そこには綾都の姿はなくて。
……あれ?綾都、違うところにいるのかな。
クローゼットの中や、テーブルの下、カーテンの裏まで、いるはずのない場所をくるくると探し回ったけれど、綾都はいない。
私の部屋にいないってことは……と、家の廊下の1番奥にある部屋が頭に思い浮かんだ。