クズな君と恋したら
「夏芽さぁーん!綾都さん帰ってきてるみたいで……す……?」
バンッ!と部屋の扉を勢いよく開けて、駆け込んできた伊吹くん。
そんな伊吹くんは、私を見て「あっ」と驚いたような声。
それもそうだよね。
綾都の両手が私の頬に回って、至近距離で見つめ合っている状態なんだから。
まるでキスができそうなくらいの距離感に、私自身も頭の中がごちゃごちゃで。
「あーあ、邪魔すんなよ、伊吹ー?」
「すっ、すすすす、すみませんボス!!」
真っ青な顔をして即座に出て行こうとする伊吹くんを、慌てて引き止める。
「い、伊吹くん!今綾都熱出てて正気じゃないから……っ!」
「えっ、あ……そうなんすね!?」
伊吹くんは、バタバタと綾都に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?あちゃー、やっぱり過労で……休んでって何度も言ったじゃないですかぁー!」
「はぁ?お前の言うことなんか聞く需要ないし、ボケ」
「ひぇっ……」
「ちょっと綾都……!伊吹くんにそんなこと言わないの!」
今思ったけど、綾都は部下に対しての雰囲気が、私に接する時と違うんだなぁ。
仕事の時は、ちゃんと切り替えてるのかな。
「ごめんね伊吹くん、綾都はベッドまで運んでおくから、伊吹くんは薬とか持ってきて欲しい」
「了解ですっ」
パタン……と、部屋の扉が閉まり、再び私と綾都の2人きりの空間が生まれる。
「もう……なんでそんなに伊吹くんに当たりが強いの」
ふう、と息をついて綾都の方に向き直ると、綾都はツーンとそっぽを向いていた。
「いぶきいぶきって、なつめはいぶきのほうがいいわけ?」
「え……」
「いぶきばっかり、おれもちゃんとかまってよ」
「う、ん……?」
熱っぽい綾都の目が私を捉えると、綾都は突然立ち上がって、私を抱き上げた。
「へっ?ちょ、あやと……!?」
「おれじゃないと、なつめはまもれないよ」
ボスン、と綾都のベッドに降ろされる。
それと同時に、いつも隣で感じていた綾都の匂いに包まれたような感覚に陥る。
「綾都……?」
「なぁに、なつめ」
綾都は、迷うことなく私に覆い被さって、顔を近づけてくる。
ぎゅっと目を瞑れば、ふ、と綾都の微笑む音。
「キス、していー?」
「っ……だ、だめだって……!」
綾都の胸板を押すけれど、びくともしない。