クズな君と恋したら
「おれはなつめとキスしたい」
「わ、私は……っ、そーゆーの……両思いの人たちが……するものだからっ……」
ジワリと目尻に涙が溜まるのを見て、綾都は少し眠そうに首を傾げた。
「……だからいーじゃん。なんでだめなわけ?」
「ふぇっ……」
思わず口からこぼれた、間抜けな声。
い、今、「だからいーじゃん」って……。それ、どういう意味で言ってるの……?
「なつめはおれのこと好きじゃない?」
まるで子犬のように私を見つめてくる綾都。
そんなの、どう答えればいいかわかんないよ……っ。
ここで、「好きだよ」って言ったら、告白することになっちゃう。
___ボディガードとの恋愛は、掟に反するのに。
「っ……い、わない」
「じゃーここにキスするけど、いーの?」
「んっ……」
親指を、私の唇にぐっと押し付けてくる綾都。
「おれ、がまんすんのきらいなんだよね」
サラサラな綾都の前髪から覗く目は、まるで私が獲物かのようにギラリと光っていて。
「……だから、うさぎのぬいぐるみだって___」
「っわ……あ、綾都……?」
そこまで言って、横に倒れた綾都。
目は閉じられていて、さっきよりも少し苦しそうだ。
熱、上がっちゃったのかも。
熱くなった私の顔をパタパタと手で仰いでから、綾都に布団を掛け直してあげる。
___キス、していー?
「っ、あ、あぶなかった……」
先ほどの、綾都の甘えるような声が脳裏に浮かぶ。
あんなに至近距離で、そんなこと言われたら、私だって……。
早鐘を打つ心臓あたりを、ブラウスの上からぎゅっと握った___。