愛し、愛され、放さない
『そうですか!
――――――てか!俺のこと、知りません?』

『は?
知りません』

『営業の夜野ですよ?
俺達、同期じゃないかな?
企画部の黒沢さんですよね?』

『すみません。
僕、他人に興味ないんで』

『俺は知ってますよ?
企画部のエースだって!』

『周りが勝手に言ってることなんで。
すみません、もういいですか?
僕、忙しいんで……』

そして百合は、少々強引にドアを閉めたのだった。


―――――――――……………

「…………」

「あ、あの…夜野さん?」

「あ、ごめんね。ボーッとしてた」

「……??
えーと…着きましたよ?」
一緒にエレベーターを降りる。 

エレベーターから自宅までの間に、夜野の家の玄関前を通るため、そこで挨拶をする玲蘭。

「お疲れ様でした」
そのまま帰ろうとすると、手を掴まれ呼び止められた。

「ねぇ!」

「え?」

「シュークリーム、いらない?」

「へ?」

「○○駅の裏の和菓子店にある、シュークリーム。
和菓子店なのに、シュークリーム売ってんだ」

「あ…」
(そこ、百合くんが気になるって話してたとこだ!)

「あ!興味ありそう!」

「あ…」

「俺、よく行っててさ。
俺の友達がそこの息子でね。
いつも買いに行ってて。
旦那と食べな?
ね?持ってくから!」

「え?え?」
玲蘭が返事するより先に家に入ってしまった、夜野。

「………」
(どうしよう……)

シュークリームは、百合のスイーツの中で唯一好きな物。
しかも、今言っていたシュークリームは“食べてみたい”と言っていた。

「でもな……」

“夜野から貰った”と言ったら、嫌がるのではないだろうか。

そんなことを悶々と考えていると、夜野が再び出てきた。
「え?待っててくれたの?
家まで持ってったのに。
隣なんだし。
はい!どうぞ?」

「あ…」
(どうしよう……
わざわざ持ってきてくれたのに、断るの失礼だよね……)

迷っていると、夜野の手が優しく触れてきた。
「え……」

「せっかくだし、食べて?
マジで美味しいから!
友達の自信作なんだ!」
そう言って、握らされた。


「――――どうしよう……」

冷蔵庫の前で唸っている、玲蘭。
結局断りきれなくて、持って帰ってきた。
とりあえず、冷蔵庫にしまった。
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