愛し、愛され、放さない
百合には、親に“愛された”という記憶がない。

母親は幼少の頃に亡くし、父親も仕事ばかりでいつも一人だった。

そのためか小学生の頃から既に、百合の頭の中では“どうすれば、一人で生き延びれるか”そればかり考えていた。

生き延びるためなら、嘘をつくことも平気だった。
しかも“まるで本当のことのように”上手く嘘をつけるようになっていく。

平気で嘘をつき、人を騙して上手く渡り歩いて生きてきたのだ。

なので、百合の玲蘭への愛情が異常で、嘘を並べて囲っているのも、そんな過去があってのことだ。


中学生になり、不良達とつるむようになり喧嘩を覚えていく。

しかし百合は、ほとんど手をあげることはない。
クールで、冷酷な人間。
恐ろしい雰囲気と、相手に反論を許さない言葉でねじ伏せるのだ。

イケメンで頭が良く、器用に何でもこなす百合にとって、鬼に金棒のようなものだった。

あっという間に、学生達を束ねられる程の存在になっていった。

高校生になると、女を取っ替え引っ替えして沢山のセフレを抱え、やりたい放題に生きてきた。

百合は“黒百合”と呼ばれ、恐れられる程にまでなったのだ。


そんな中。
克広は、百合とは正反対だった。

両親には愛され、優しく穏やかで、誠実。
いつも穏やかに微笑んでいた。 

そして幼馴染みの百合のことを、いつも気にかけていた。

百合にとって克広は、邪魔で苦手な存在だった。
それは……百合の曲論に、正論で向かってくるから。

嘘を並べて、偽りの世界で生きているような百合。
反対に克広は、誰にでも愛され、綺麗な世界で生きている。

愛情に飢えている百合は、どこかで克広に憧れていたのかもしれない。


そんな時に出逢ったのが、玲蘭だった。

それは百合にとって、衝撃的なモノだった。

克広を見る玲蘭の眼差しが、とにかく綺麗で“僕も、こんな風に愛されたい”と思ったのだ。
 


そして―――――

対等している百合と克広。

“返してよ、玲蘭を”

克広の言葉が、綺麗に響いていた。

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