愛し、愛され、放さない
「―――――じゃあ…行ってくるね」

玄関先で百合を見送る、玲蘭。
「うん…」 
心なしか、声色が暗くなる。

「終わったら、急いで帰るからね」
「うん…」

「家事、無理しないでね。
帰って僕がしてもいいし、洗濯や掃除も休みの日に一緒にしてもいいし」
「うん…」

「玲蘭はただ僕の傍にいて、僕だけを想ってくれるだけ十分なんだから!」
「うん…」

「出掛けてもいいけど、気を付けるんだよ? 
でも、出来る限り出ないで?
買い物も、僕と行けばいいんだし」

「うん、わかった」  

本当は、監禁したいと思っている百合。

しかし、さすがにそこまでは出来ない。

一度そんな意味合いの話をしたら、かなりひかれて、警戒されて、距離を置かれたから。

玲蘭に嫌われるなんて“死”を意味する。


後ろ髪引かれる思いで出ていく、百合。
玲蘭も、ドアが閉まり切る寸前まで手を振っていた。

しばらく玄関に立ち尽くして、ゆっくり動き出す玲蘭。

“何もしなくていい”と言われたが、何かしていないと寂しいので洗濯にとりかかった。


そして百合は………
雰囲気が黒く、誰も寄せ付けないオーラを放っていた。

“僕に近づくな”と牽制しながら、駅に向かう。

通勤・通学の乗客でいっぱいのホームに並ぶ。
電車が来て乗り込んだ。

押されるように乗り込み、出来る限り端の方に寄る。

「………」

吐き気がする――――――

この朝独特の重い雰囲気も、人が密集した息苦しさも。

“玲蘭が隣にいないことも”

吐き気を我慢しながら電車を降り、会社に向かう。
外の空気を吸うと、少し吐き気が落ち着いた。


「おはようございます」
挨拶しながら入る。

社員達が、挨拶してくる。
「おはよう!」
「黒沢さん、おはよう!」
「おはよう、黒沢!」

適当に微笑み、デスクについた。

淡々と仕事をこなす、百合。

そんな中、時折スマホを取り出し、玲蘭の居場所を確認する。
(玲蘭を上手く言いくるめて、アプリを登録させてるから)

出掛けてもいいと言ってはいるが、ちゃんと家にいてくれてるだろうか。
言葉の端々に、僕以外と外に出ないほしいと伝えているつもりだ。

僕の顔色を窺ってばかりの玲蘭。
僕の気持ちを察して、家にいてくれてるはずだ。

そんな思いを込めて、スマホを確認する。

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