愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?
はぁーっと憂鬱そうなため息をつき、彼が促すので歩き出す。

「新婚旅行に行かなかったのが、今になってつくづく悔やまれる」

本当に彼は悔やんでいるようだが、それって私とふたりで旅行に行きたかったってこと……?
いやでも、彼が大事なのは子供であって、私は付属品に過ぎないはずだ。
そんなはずはない。

港を望む公園にはたくさんの屋台が出ていた。
私は楽しいけれど、宣利さんはどうなんだろう?
隣を歩く彼をちらりとうかがう。

「ん?」

目のあった彼は不思議そうに私を見下ろした。

「いえ……」

……いいんですか?
とか聞けないし。
こんなところに誘って失敗だったかも……。

「屋台ってちょっと、憧れだったんだよな」

歩きながら私が、人にぶつからないように宣利さんは気遣ってくれた。

「塾の送り迎えをしてくれる車の中から、眺めるだけだったからな。
あれはなんだと尋ねても、倉森の人間が行くようなところではない、ってさ」

おどけるように彼が小さく肩を竦めてみせる。

「だから、来られて嬉しい」

僅かに頬を赤く染め、宣利さんは大きな手で覆うように眼鏡をあげた。

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