愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?
開発部は会社のエリートといえる人たちが集まっている。
そんなところに私なんて、無理。

「えー」

不満げに唇を尖らせる母は、もうすぐ還暦だなんて思えないほど可愛い。
こんな母だから父は惚れたのだろう。

「『えー』でもダメだ」

なぜか父が、少し赤い顔で咳払いする。
やはり、母が可愛いと見惚れていたようだ。

「どこかの店がバイト募集してないか聞いてやる。
それでいいか」

「うん、いいよ」

これで忙しくなれば当面、なにも考えなくてよくなると喜んだものの――。



「花琳ちゃーん。
もう、私も出るけど。
ちゃんと起きてごはん食べてよ?
また帰ってくるまで寝てたとかやめてよ。
じゃあ、いってきます」

「……はーい」

ドアの向こうから聞こえた母の声におざなりな返事をし、起き上がる。

「……眠い」

それでも頭はぐらぐらし、そのまま布団に突っ伏しそうだ。

「顔洗ってこよ……」

ふらふらとベッドを出て洗面所へと向かう。
ここのところ、とにかく眠い。
眠くて眠くて堪らない。
寝ていていいと言われたら、延々寝ていられそうだ。

「ごはん……食べたら……目も覚める……かも……」

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