愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?
離婚したと聞いてもなにも言わなかった父は、事情を察していたのかもしれない。

引っ越しは宣利さんがお任せパックを手配してくれた。
最後までお手間を取らせて本当に申し訳ない。

引っ越しの日、宣利さんはいなかった。

「……見送り、してくれないんだ」

わかっていたはずなのに、落ち込んでいる自分がいる。
宣利さんにとって仕事が一番、私は……何番だったんだろう?
離婚してしまった私なんてもはや、ランキングの対象ですらないんだろうけれど。

「おい、行くぞ」

「あ、うん!」

迎えに来てくれた父の車に乗る。

「バイバイ」

バイバイ、一年間だけの我が家。
バイバイ、宣利さん。
もうここに戻ってくることも、会うこともないだろうけれど。

流れていく窓の外をぼーっと眺めながら、この一年――出会いから一年半の生活を思い出していた。
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