愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?
彼が鍵を開けてくれ、一緒に屋敷へと入る。
そこは防音がされているからというよりも、人の気配がなくて静まりかえっていた。

「まあ、航空祭のとき、混む基地まで行かなくても庭から見上げればブルーインパルスが見られる役得はある。
もっとも、基地から招待状も来るけどな」

「へー」

私のキャリーケースを持ち、屋敷の中を進んでいく彼を追う。

「ここを使ってくれ」

開けられたのは屋敷の奥の角部屋だった。
南東に向いた大きな窓から燦々と日の光が降り注ぐ。
窓の外はテラスになっており、外に直接出られるようになっていた。
外にはまるで専用に庭のように、色とりどりの花が植えてある。
広さからいってたぶん、ここがこの屋敷でリビングに次いで一番いい部屋ではなかろうか。

「あの。
私の部屋がここでいいんですか……?」

家主である彼ではなく、私がここを使うなどいいはずがない。

「ああ。
花琳は僕の大事な人だからな。
ここを使ってもらうのにふさわしい」

――大事な。
その単語に一瞬、胸がとくんと甘く鼓動した。
しかし、すぐに否定する。
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