涙空
 月が写っていた。






「綺麗でしょ」






「うん」






「僕は、月よりも、もっと遠くの所へ行って、人が見た事ない景色を見るのが夢なんだ」






 優しく話した。その人は笑っている。






 三月下旬の風はまだ冷たく、私たちを吹き付けた。






「どうぞ」






 手袋。






「危ないから、送るよ」






 うなずく。こんなに、人と話すのは、一人の友達以来だ。






「行こうか」






 コツコツと、静寂の空に響く重なる足音。

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