煙草を吸う女
そんな俺の様子に気付くことなく、沢口さんは気を使ってかさっさと喫煙所からでた。俺も続いて喫煙室から出た。喫煙所から出るとき、ふんわりと沢口の吸っていた煙草の匂いが鼻を掠めた。俺は煙草を嫌いなはずなのに、まるで嫌悪感を抱かなかった。それどころか、柑橘系の柔軟剤と混ざり合ってむしろ癖になるような匂いに変わっている。抱き締めて、ずっと嗅いでいたい。なんだか自分が変態臭く感じて、邪心を振り払うように手を額の前で払った。彼女はじゃあね、と肩をぽんと叩いて颯爽と事務室に帰っていった。俺はその骨ばった背中を見つめながら、久しぶりの胸の高ぶりに戸惑いながらも噛みしめていた。