そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
「私もあるかも」
 
 路上にチョークで書かれた子供の落書きに、ふと可愛いとか、面白いとか心を動かされることある。
 駅とかに置かれたアップライトを弾いている人のピアノで、足を止めることもあるし。

「人を感動させるのに、プロである必要なんてないんだよ」

 なんなら、俺一人感動させるだけで十分なんだ。と涼介さんは笑う。

 私のピアノで涼介さんを感動させられたなんて。ちっとも知らなかった。

 地味な私だけれど、ピアノが大好きで。小さい頃からピアノだけは頑張っていたもの。
 プロにはなれなかったけど、それでも聞いてくれる人がいるだけで幸せなんだと、気づかされた。

「ありがとう、涼介さん」
「リビングにあるグランド。あれは君の為に買ったものだ」

 うそ…!?

「君がいつ弾くかと思ってたんだけど、眺めているだけで弾こうとしなかったね」

 彼のリビングの奥。一番景色の良い所にグランドピアノはあった。
 てっきりインテリアとして飾っているものだとばかり思っていた。

 そんなことまで計算ずくだったの?
 私が、あなたの彼女になると確信して、ピアノを用意していたの?

「今夜弾いてくれる?」
「鍵盤に全然触れていなかったから、上手く弾けるかどうか」
「構わないよ。ピアノも君が弾いてくれるのを待ってる」

 涼介さんは、飯塚さんが『私が紹介してあげたのに~』のことも教えてくれた。

 就職が決まって、私はブルーローズからいなくなった。

 彼がママにたずねても、私の就職先は知らないと言う。

 本当はママに教えていたのだけれど、口止めしていたのだった。
 その理由は、しつこく言い寄って来る人がいたから。

「誰だ、そいつっ!」
「言えません。ごめんなさい」
「まぁ、美里は俺のものだからいいけど」

 渋々、涼介さんは諦める。

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