そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 愛に満たされた後は──。
 
 夕食はデリバリーで済ませ、ゆっくりと過ごしたのだった。

「今日もピアノ弾ける?」
「何がいいですか?」
「美里の好きな曲でいい」
「じゃあこの前弾けなかった曲」

 私はドビュッシーの月の光を弾いたのだった。

「明日も会社を休んでいいから」
「でも、長くお休みを頂いたから仕事も溜まっているだろうし、きっと飯倉さんだって…」

 すると、涼介さんはニヤリと笑う。

「大丈夫」
「何がですか?」
「美里は僕の秘書になったから」

 晴天の霹靂だった。

「涼介さんの秘書?」
「ああ、これからはずっと一緒だ」

 入院中に間宮さんは辞職したと聞いた。きっと新しい人が来るものだと思っていたのだけれど。

「社長室も移動したから心配はないと思う。元の場所は…封鎖した」

 社長室は最上階。屋上にはヘリポートがあるから、実際には倉庫のような使い方になるそうだ。

「で、どちらになるんですか?」

「法務の隣」

 えっと。

「法務の横はちょうど開いていただろう?」

 観葉植物とテーブル。ちょっとした社員の歓談場所になっていた。

「そこを社長室にした。法務に近い方が何かと便利だろうしね」
「何かと便利でしょか?」
「ああ。契約書関係は俺も目を通すし、原田先生や法務部長とも話やすいからね」

 法務部長…飯倉さんの意向がだいぶ働いてそう。

 でもあの嫌な記憶が残る場所に行かなくて済むのは、精神的にも安心する。

 何より、涼介さんの側で仕事が出来るのが嬉しかった。

 
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