そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 私が泣いているあいだ、飯倉さんは黙って背中をさすってくれていた。

 優しさに甘えて、差し出されたハンカチで『チーン』ってうっかり鼻をかんでしまった。

「あっ、すみません!つい」
「いいのよ、気にしないで」
「これ同じの買って返しますっ」
「そう?でも本当に気にしなくていいのよ」

 彼女は笑うと「途中まで一緒に帰ろうか」と言ってくれたのだった。

「本当は飲みに誘いたいところなんだけど、これから実家に帰る約束をしているの」

 彼女は肩をすくめる。

「親がね、お見合いをしろってうるさくて」
「お見合い、ですか?今から?」

 普通お見合いは大安とか吉日を選んで、昼間にするのもじゃないっけ。

「私も相手の方も忙しくて時間が取れなくて。変よね夜からお見合いなんて」
「どうかな。しょせん昼間とか吉日とか昔の慣習ですよね。忙しい現代はそうも言ってられないと思いますよ」

 エントランスホールまで来た時だった。
 間宮さんとばったり会ってしまった。

 なんてタイミングが悪い。すっごく気まずい。
 けれど事情を知らない飯倉さんは笑顔で声を掛けた。

「こんばんは~。秘書さんもこの時間までお仕事?大変ね」
「いえいえ、営業や法務さんに比べれば全然。それに遅い時間だと、ほとんどが接待関係ですし」
「へー、じゃあこれから接待?」
「ええ、某電力会社の重役さんたちとべリが丘グランドホテルで」

 ふふ、と冗談めかして飯倉さんは笑う。 
 
「羨ましいわね。いつも美味しいものが食べられて」
「それはそうですけど、重役の方々の接待ですから気は抜けませんし、作法とか所作とか色々ありますから、そこの安いニットを着ている人には無理でしょうね」

 いきなり敵意を向けられて、ちょっぴり心がズキンとなった。

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