そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
「ただいま」

 真っ暗な部屋に向かって挨拶をすると、玄関を上がり壁にあるスイッチを入れる。

 もうすぐ五月だと言うのに部屋はうすら寒い。
 家々が密集している地域だけに、陽あたりが悪いせいだ。

 家賃は五万ちょっと。
 東京の大学に進学した頃からずっとここに住んでいる。
 
 今の会社のお給料が悪いわけじゃない。むしろ良いくらいで、もっといい部屋に越すことも出来るのだけれど、ここのアパートに住んでいる人たちは皆親切で優しいし、下町感が田舎に似ていて気に入っていたから引っ越しは考えていない。

 少しだけ窓を開けて空気を入れ替える。
 窓辺にある観葉植物に水をあげ、テレビのスイッチを入れて、お風呂にお湯を張る。

 いつものルーティーン。 

「今日は変な一日だったなぁ」

 冷蔵庫からお茶のペットボトルを出してコップに注ぎながらテレビの前に座る。

 ちょうど付けたらお笑い番組をやっていて、騒がしく音がするのは分かるけれど、テレビから流れる画像も内容も頭には入ってこない。

 阿久津社長、本気だったのかな?
 やっぱりあれは夢だった気がする。

 だってあり得ない。あんなこと。”うどん”で彼女を決めるとか。それが一時的であっても、それなりに会って会話はするのだし。同じ会うなら美人の方がいいに決まってる。
 
 見ず知らずの女に彼女になってくれなんて。
 しかも、こんな地味で普通の女に。

 映画やゲームの世界だってあんなこと無いって。

「あはは、きっと明日になればすべて冗談だった。みたいな展開になってよね」

 ……コンコン。

 突然の玄関ドアを叩く音に、ビクンとなった。

 こんな時間に一体誰?
< 22 / 147 >

この作品をシェア

pagetop